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第28章 少女のいる世界


「はい蝶さん、フライパン振るから右側移動して」

『チュー五回ね』

「家また帰ってきてからな」

抱きつく場所を移動すれば、中也の絶品オムレツが形取られていく。
昨晩のような行為の翌日の朝は、必ず彼が朝食を作ってくれる。

無茶させるのに応えてくれたお礼らしい。
こんなことしなくても、したくてしてることなのに。

袖を通した彼のシャツは落ち着くにおいで、やはり私を安心させる。

『中也さんがいっぱいいたらいいのに』

「お前それもつの?心臓とからだが」

『もたなくていいもう』

「…ベーコン一枚つまみたい人」

『中也さんのベーコンは蝶のなの』

つまみ食いのように食べさせられる。
やっぱり美味しい、ベーコンは勿論だけれど、彼の焼き加減はやはり私の好みにドンピシャなのだ。

「朝ご飯は結構食べるよなぁお前」

『…朝ご飯は大事なんだって』

「そりゃそうだな。俺が食うようになったのもお前の影響だし」

『自称私の専属コックさんが言ってたの。女の人好きだから冗談みたいなものだったんだろうけど』

「へえ…それでオムレツが好きなの?」

『たまたま嫌いじゃなかっただけ』

「大好きじゃねぇか。明日あたりチーズ入りにしてやるわ」

この人は本当に…

『ねえねえ中也さん、まだ今中也さん営業中?』

「んー…蝶が甘えたそうだから営業中にしててやろうかな」

『じゃあねぇ…蝶、大きくなったら中也さんと結婚するの』

「とんだもの好きだよ本当。俺まだ中也さんしてた方がいい?」

『どっちでもいい。言いたかっただけ』

撫でられるのに目を瞑って、心地よくなる。

すると彼は保護者モードを抜けたのか、額や頬にキスしてから、私に向けてやはり言った。

「とっくに俺のお嫁さんじゃなかったっけ?…籍は、いつ入れたい?作るのに少し時間はいるだろうけど……次の誕生日過ぎたら、入れれるぞ」

『……二十歳でいいかも』

「珍しい…どうした、そんなに甘えてきて?…籍入れても入れてなくても、俺はずっとお前の保護者でもあるんだからな?」

『…じゃあ、来年の誕生日に入れる…っ、えへへ』

好きな人が私の保護者で配偶者だなんて、そんなに幸せなことって普通じゃ絶対有り得なかった。
…案外、いい事もあったんだな、なんて。

“中也さん”をまだまだ卒業しなくてもよさそうで、ほっと胸をなで下ろした。
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