第28章 少女のいる世界
少し雰囲気の悪いままだったけれども雛森ちゃんは場所を移動し、そのまま真子と二人になる。
場所的には、五番隊の隊舎の屋根の上。
「んで?なんで俺に忘れられてた方がよかったとか思うわけ?」
『…私、ついこの間意識が戻ったのよ。知ってる?』
「喜助から聞いてたからな…記憶が抜けてるのも聞いてた」
『自分のことも分からないし、中也の事だって覚えてなかった……そんな中、捩摺のおかげで、真っ先に尸魂界でのことを思い出せた』
それだけを思い出して…そんな、密度の濃いものを思い出して、人間がたったの数日で元のように整理できるか。
できるわけがない。
「それは…なんつうか、きっついもんから思い出したもんやな、お前も」
『……それで、知恵熱出しながら能力使って、やっと全部思い出しきったのが昨日のことよ。…ね、……私…、私が尸魂界に来てもいい理由って、何?』
「…なんで?何が不安?」
『だ、って…私が、関係者だってことと……知り合いがいるとか、喜助さんの斬魄刀だとか、そういうの以外で…もう、何も無いんでしょ…?』
なんて情けない声だろう。
私だって怖いんだ…怖いんだよ。
「何か無いと来たらあかんとでも思ってんの?お前」
『……あんただって嫌でしょ、こんな面倒なの相手にするの…他の子と良くやってるところに私なんかが戻ってきたところで、邪魔しか…』
「それ本気で言っとんのか?」
返された言葉に、黙りこくった。
本気といえば本気だ。
否定してよって、今にも口をついて出てしまいそうになっているだけで。
『だ、って…嫌でしょ、?口も悪いし手も出すし、わがままだし迷惑ばっかりかけるし、妬きやすいし面倒かけるし…っ…可愛げ、ないし…』
「……可愛げない奴なんかのために、わざわざ二人になってまで慰めたりなんかするかい、この俺が」
『だって真子女の子好きじゃない…』
「否定はせんけどお前は別や…、つうか、俺自分の副官に対してあそこまで言うたんやで?」
『雛森ちゃん可愛い優等生だからね。心が痛くなっちゃったんだ?』
「妬いてんのはよぉ分かったけど?俺はお前のこと忘れる気ないで…独りにさせて我慢ばっかさせてた分くらい、わがまま聞いてやらな気がすまんねん」
わがままを、聞いてくれる。
彼は、確かに今そう言った。