第28章 少女のいる世界
「なんや桃、どないした」
「い、や…だって、もしまた乱闘にでもなったら…っ、副隊長としてはあまり隊長の今の意志に添えないなと」
あの澪さんがこんな風に誰かに手を出したり興奮するだなんて、よっぽどの事態だと思われますし。
なんて、当然のことを列挙していく彼女は、やはり慎重で優秀な人材なのだろう。
しかし、優秀なのは彼女だけに限った話ではない…そもそも、あらゆる能力に秀でた優等生の集まるのが、真子の率いる五番隊という組織。
洞察力や推理力、慎重さなど、そういう面でも秀でた人材が集まる隊。
その全てを率いているのが、他の誰でもないこの平子真子であるという事実を、彼女は分かっていないのだろうか。
「澪のことに関して、あんま口出したらそこだけは俺、許せんで?桃」
「え…、でも、明らかに澪さん様子が…ここまで取り乱すところなんて見たことないのに…っ」
「澪が取り乱してんの見たこと無いなら尚更や。こいつはよく取り乱すし、よく興奮するし、俺になら手だって出してくる。そうするよう仕向けたのも俺やし…ちょっと隠すのが他の奴らより数倍うまいってだけや。気付けてなかったなら酷な言い方になるけど、澪は理想の死神でもなければ理想の人格像でもないで…ただのわがままな餓鬼やからな」
そこまで言いきった真子に誰よりも意外そうな表情を見せたのは中也だった。
私を撫でてから、十一番隊の隊舎へ向けて歩き始める。
「理想のって…、私、そんなつもりじゃ…」
「澪は欠点なんか見当たらん程に強いし、性格も文句のつけ所がないくらいに優しいし人当たりええし、誰にも迷惑かけんし誰でも助けてまうような奴やろ?」
「!それはもう、今でも全死神の中で憧れの___」
「憧れられるから、誰にも迷惑かけられへんねん…よう覚えとき、変に気遣わんでもええけど、俺に暴言吐いたり手出したりしてるの止めるような真似するなら、誰相手でも俺、怒るで?」
『……あんた、私のこと好きなのか嫌いなのかどっちなわけ?』
場の空気を少し変えようと、思ったことを淡々と口にする。
「あ?もちろん好きやで、女として」
『いつも他の子の話ばっかりするくせに笑えるわね、いっぺん死んでまともになって生き返ってこればいいと思うわ』
「お前さっきまでの素直さどこ行ってん、ほんま可愛げのないやっちゃ…」
『死ね』
「ほら素直んなった」