第28章 少女のいる世界
夢を、見た。
暗い暗い海の底…そこに引きずり込まれて、逃げ出せなくて。
捩摺も…仲間もいないそんなところで、私の大好きなはずだった水の中に吸い込まれる。
気付けば中に閉じ込められていて、またあの男が笑うのだ。
そう、私は普通の人間じゃない。
『………』
「起きた?魘されてたから、ベッドん中入っちまった」
声を聞いて、彼の姿を認識してから、無意識に彼の身体に腕を回す。
確かめるように力を入れて、たしかにそこにあるぬくもりに安堵して…それから、ようやく一つ息を吐いた。
『…私でいいの、ほんとに』
「?…うん、お前がいい」
『……見たんでしょ』
実験のデータ、全部。
それだけじゃない、何度も…致命傷を再生しているところや、本当に死んで体を再構築しているところまで。
全部、見られていた。
私でも知らなかったような…覚えていなかったそれを、全てこの人は知っていた。
知ってくれていた。
「何を…って聞くのは野暮だよな。知ってるよ、怖がらなくていい。柳沢本人は…俺がやりすぎちまったせいもあって、口もきけないような重体でベッドの上だ」
後遺症として、話すこと、それから身体を動かすことがほとんど出来なくなっているそうな。
いわゆる寝たきりの状態で、この先の人生を過ごすらしい。
『私がこの世界に来たから?』
「報いみたいなもんだよ、因果応報ってやつ。自力じゃ死ねないし、誰も殺してくれない…お前にしたことに比べりゃ、大したことでもなんでもない」
『でも、それってわた「お前のせいじゃない。あいつがやりすぎただけだ…それで恨みを買っただけ。人間ってそんなもんなんだよ、よく知ってるだろ」…』
私のせいではないと、彼はまっすぐ伝えてくれる。
そして彼も、悪い事をしたとは少しも思ってはいないらしい。
『殺してあげた方が楽だったんじゃない?』
「お前は許しちゃいけねえよ、あいつのことは…残念ながら俺も許すつもりはねぇし、一人だけ楽になんか生きさせてやるつもりは毛頭ない」
『殺すつもりだったくせに』
「お前が止めてくれなきゃ殺してたわ、あぶなかった」
汚濁で…中也は柳沢を殺すつもりだった。
自分も、どうなったっていいって…本気でそう思っていた。
だから、彼の核に魂で融合して、なんとか彼だけはと…
『…死んでたら、殺してた』
「二回殺すなっての」