第28章 少女のいる世界
中也お手製の絶品白桃ゼリーと共に薬を服用し、取り分けていなかった分のお粥の入っている小さい鍋が視界に映る。
それを気にしないようにするのだが…中也の仕事姿を見てはそれが気になって、なんだか落ち着かない。
そこで遂に口を開くのだけれど、私がこんなことを自分から言うのなんて、滅多にないことなのだろうと自分でも思う…そんなことを彼に言う。
『あの、中也さ…中也』
「!どうした?どこかに出るとか?」
『ううん、その…お粥、残っちゃってるのはどうするの?』
「あー…まあ、後で適当なタイミング見つけて俺が食べればいいだろ」
私のお腹がすいているわけでも、余裕があるわけでもないのだけれど。
仕方がない、衝動的に…そう動くような身体にさせられてしまっているらしいから。
『…お粥、おかわり』
「………蝶、一回浦原さんに見てもらおうか。どこかの調子が悪いのかもしれない」
『失礼な』
「いや、悪い悪い…今日槍でも降ってくんのかな」
失礼に失礼を重ねてくる。
やはり普通ではないのだろうか。
なんて、少し、どうしてか落ち込んだその矢先のこと。
「…どうしたんだ?無理して食べなくても、俺が食べるから大丈夫だぞ?お前はちゃんと、頑張ってノルマ分食べたんだから」
『…あれは私のために作ったお粥でしょう?全部私が食べるの…中也さんになんかあげない』
「なにそれ、デレ期?めっずらし…そんなに食べたい?」
『なんか、食べられそうなの。中也さんが私に作ったもの、他の人に食べられるの嫌』
「喜んで今すぐ温め直すわ」
不思議だ、食にここまで執着したのなんていつぶりのことだろうか。
…ああ、そうか。
自分のためにと作ってくれる人が、こんなに身近にいることの方が少なかったんだ。
「おまたせ。あんま熱くなりすぎないようにしたけど、いいか?」
『姫、熱いの食べられない』
「知ってる。猫舌だもんな」
知られてた。
そんな情報まで伝わってたなんて、びっくりだ。
だからわざわざ冷まして食べさせてくれたのか。
『温め直しは温いくらいでいいの。その方が味わえる』
「それも知ってる。そのくせ作りたての場合はそのまま食べるって聞かないから、結局食べるのに苦労してるから見てて面白ぇ」
『…馬鹿にしてます?』
「いいや?可愛がってる。…お味は?」
「世界一姫の好みの味かしらね」