第28章 少女のいる世界
『私、貴方の好きな蝶じゃないのに』
「俺の好きな蝶と同じ、紅姫…それから澪だろう?」
『…蝶じゃ、ない…のよ…?』
「そんなに怯えなくても、俺はお前以外の誰のものにもならねえよ」
蝶の記憶があるかないか…それはこの人にとって、そんなにも重要度の低いものなのか。
共に過ごした時間を無くしてしまったようなものなのに。
『手…繋いでみたい』
「喜んで」
絡められる指に、トクンと胸がなる。
『…たまに、姫ちゃんって呼んで…?』
「じゃあ今日は姫ちゃんって呼んでてあげる」
くすぐったい。
なんだか、本当に家族みたい。
血が繋がってる訳じゃないのに、変なの。
『…今、姫に何してほしいって考えてる?』
「……俺のこと、中也って呼んでほしいかな。遠慮しないで、なんでもわがまま言いまくって…俺や周りのこと困らせちまうくらいに、自分のために生きてほしい」
『ちゅう、や……中也、は…姫にこういうこと、いっぱいしてきたの?』
「うん、いっぱい…つっても再会してからだし、本番行為まで進んだのは割と最近の話だけど」
女の子として見られてないわけじゃ、なかったんだ。
てっきり、そういう部分を気にしないだけの人なのかと思ってたのに。
『中也、あの…』
「ん、何?」
『…ご飯、いらないって言ってごめんなさ、い……美味し、かった』
「……馬鹿、なんでこんなことされといて礼言うんだよ」
抱きしめる腕に更に力が入る。
だってこの人は…私に痛いこと、何もしなかった。
何も、暴力ふるったり…苦しませるだけのことなんか。
話ぶりからして、私が意識を失うほどに霊力を使っているところを…恐らく二日くらい丸々たってから見つかっている。
自分消耗具合からして、捩摺をそれくらいは具象化し続けていたはずだから。
『この、まま…一生飼い殺してって言ったら、怒る…?』
「…怒りはしないけど、こういうのは家にいる時だけでいい。あんまり…無理に冷たくすんのも、心苦しいもんがある」
『そ、う………中也、…』
私が屈服している状態に既になってしまっている…それはつまり、この人が私に、心からのその言葉を言い聞かせていたということになる。
「なに…?」
聞いて、みたい。
きかせてほしい。
私のこと…
『……私の、こと…どう、想ってる…?』
「……愛してるよ、他のなによりも」