第28章 少女のいる世界
壁を張るだけ張り巡らせ、迷彩効果も防音効果も…更には存在を希釈してまで、私はそこで塞ぎ込んだ。
何重にも張った壁のせいで多少ふらつきはするが、どうせこのままここで意識を失うまで捩摺といるんた、どうってことはない。
「怒られんじゃねえの?勝手にいなくなって」
『…そんな人が、いると思う?』
私なんかに。
「…お前がその目で見て、その身体で感じ取れるのを信じてるよ」
『ふぅん、あくまでも今回はそういうスタンスなんだ。…信じて待つのって辛いじゃない?だから私ね、もうそういう希望は持たないようにしようって決めてるの』
「知ってる」
捩摺の言葉は、それから長く一呼吸おいてから、続けられる。
「…それでも信じたくて、ずっと待ってたの…俺はちゃんと、知ってる」
『……泣かせに来ないでよ、生意気』
「勝手に泣かれるもんは仕方ねぇだろ」
『捩摺のくせに…下まつ毛のくせに』
「…震えきってるくせに。怖がりで泣き虫で、技術ばっか強くなってとことん寂しがり屋なくせに」
後ろから回される腕は懐かしくて、胡座をかいたその上に体ごと乗せられて、包み込まれた。
…このまま、死んでしまえたらいいのに。
生きてるだけで、辛いことしかついてまわってなんかこないんだから。
私の愛は…私は重たすぎるんだから。
『捩摺…、私のこと、殺してよ』
「却下。俺まだ死にたくねえし」
『じゃあ私の代わりに喜助の斬魄刀デビューする?造り変えてあげ「遠慮する、誰があんな変態野郎なんかと」…』
私がいなくなっても、別に世界に影響はない。
そのうち誰の記憶にも残らなくなって、存在していたこと自体がなかったことになるだけだから。
「…姫がいなくなった世界なんかクソ喰らえなんだよ。俺は…嫌だ、そんな世界」
『…今この瞬間、私のこと覚えてる人なんか普通いないって』
存在そのものを、世界中から消しかけているのだから。
私がいたこと、全部。
ほら、それならこうしてたって誰も構わない。
今までみたいに、ただ私がこうしていたいだけ、捩摺と二人でここにいられる。
…なんで、いつもこうなんだろう。
いつもいつも。
私は、ちょっとくらい愛情を独り占めしたいだけで…
「…おやすみ、姫。……俺の事早く手放さないと、お前本当にここで独りで死んじまうぞ?」
させねえけどよ…
蒼が、揺らめいた。