第28章 少女のいる世界
「それでもいいって…、それに、記憶が戻りさえすれば『戻ったら何?』何、って…」
『私が…心まで許したたった一人の人を相手に、そんなもので我慢できる子だと思ってるわけ?……思わないわよね、あんたなら』
「……一緒にいた、から…分かるんだよ…!どれだけ中也がお前にとって大事な奴かくらい…、お前にとって、正真正銘唯一の…」
『そうね。正真正銘…唯一私が愛する人。……正しくは、蝶とやらの愛した人。…無理よ、私には名前を付けられた記憶でさえないんだから』
私が喜助からもらった大切な大切な名前を変えてまで名乗った、その名前。
使えば確かに、愛おしささえ感じてしまう。
しかしそれと同時に、やはり私は蝶にはなりきれないのだという思いが拭えない。
「…お前がそうするなら止めねえよ、ただ俺は中也を信用してる」
『主…喜助にも、それから真子にだって、同じようなこと思ってたんじゃないの?』
「……そ、うか、お前今記憶が………分かった。気がすむようにしてみやがれ。言っとくけど中也は…俺より相当しつけぇぞ」
『どうだろうね。私はただの、捨てられた斬魄刀に過ぎない依代よ』
そんな悲しいことを言わないでくれよ。
なんて訴えかけられた気がした。
これでもう何度目になるだろうか。
捩摺を傷つけて…それでも傍にいてくれる彼に甘えきって。
『…そういえばその下まつ毛、やっぱりセンスないからやめた方がいいと思うわよ。副腕章も無いし』
「……似てない?」
そのまま二人で死んでしまいたいくらいに、似てる。
心ではそう強く思ってしまう…きっと捩摺にだって伝わってる。
けれど私の口は饒舌で。
『ぜんっぜん?…私なんかと一緒にいない方がよっぽど幸せだと思うわよ、あんたは』
「またそれかよ…俺がいなくなったら、こういう時に誰が居場所になれるんだよ」
ただでさえ強情で頑固なのに、お前。
余計な付け足しをいつものように聞き流して、白い蝶を集めて異世界への扉を開く。
行先は、尸魂界。
私の、唯一私達だけの居場所。
そこにいても、誰にも迷惑かけずにすむところ。
誰の足も引っ張らないですむところ。
私と捩摺だけの居場所。
「二人揃って今頃言ってんぞ?またそんな面して、って」
『…知らないわよ、片方は下まつ毛だし、もう片方は自業自得野郎なんだから』
「…墓の前が落ち着くってのもな」