第28章 少女のいる世界
首領室から出て、行く宛もなくたどり着いたのは、何故か馴染みのある医務室の中。
なんとなく誰にも会いたくなくて、中也さんの執務室にも行けなくて、立ち寄った。
寝台に身体を預け、うつ伏せになれば、よく知った霊圧を感知する。
淡い蒼色の光…どこか澄んだ気持ちにさせられるそれが私の上で光ってから、重みを持って私を上から潰してきた。
『…重たい』
「阿呆。間抜け。姫の馬鹿馬鹿馬ー鹿」
『いつになく悪口のオンパレードね。……ねえ、私、中也さんから逃げられないんだって』
邪魔になりたくなんて、ないのに。
「ま、お前ら揃って言ってたからな」
『どうしよう捩摺、私、どこにいたらいいのか分かんないかも』
「だから馬鹿っつってんだよ…まぁたそんな“目”して」
『…ねえ、尸魂界に私の居場所って…まだ、ある?』
言われなくても知ってる。
答えはノー。
私を居させてはくれるだろう、そんな気はする…最悪喜助の元にいたっていい。
しかし、そこはもうとっくの昔から、私の居場所ではなくなっている。
私のいない所で世界が回り続けて、私がいないのが当たり前になっちゃった世界なのだから。
「………もしかして、もうここに戻らねえつもり?」
『…ううん。私がどっか行っちゃったら、しつこく追いかけて連れ帰るんだっ…、て……?あれ…、…あ…そっ、か』
分かってしまったかもしれない。
私が、ここにいてもいい理由。
…だから、記憶がある頃、私は彼とそんな契約を?
「おい…っ、おい、姫!!!…、やばい事閃いてる目ぇしてんぞ今、何考えやがった!!?」
『…分かるでしょう?貴方の主のことなんだから』
散々二人で一緒にいて…散々、見てきたじゃない。
私が壊れきってしまわないように、どれだけ必死に壊してきたか。
「お前、そういうことは…されると俺だって苦しいんだぞ…ッ!?」
『…じゃあ、捩摺が私と二人っきりで、死ぬまで一緒にどこかにいてくれるっていうの?』
覗き込んだ瞳は狼狽えていた。
私の腹の中まで、全てを知っている者の目だ。
「…技量的にも限界がある。浦原が探し出さないとも限らねぇ…けど、お前は一人じゃないだろ?やっと…一人じゃなくなったんだろ…?」
『独りだよ』
「!!!」
『…だって、私はただの澪と紅姫なんだから。彼が求めてるのは私じゃなくって蝶なんだもの』