第28章 少女のいる世界
広津さんの任務という言葉に、食いつく人がここに一人。
「任務!?今から行くのか広津さん!!」
「おおお、中也さん早速食いついてる…」
立原の呟きに、彼の瞳が輝いているのが改めて見て取れた。
まあそうか、好戦的だし、喧嘩が趣味のようなものだし…この人にとっても天職だしな。
そして何より、眠ってる間も含めるとかなりの日数出向いてはいないはずだ。
「お言葉ですが、今回は蝶ちゃんに着いていた方がいいのではないかと。そんなに苦労するような相手でもありません」
『……いいんじゃないですか?ウォーミングアップにでも。身体動かさないのもあれだし、ついでに今から首領に許可でも取ってみたら』
「…いいのかい?」
『中也さんが楽しそうですから』
クスクス笑いながら言えば、広津さんはそれ以上何も言わずに、私の頭を軽く撫でて歩いて行ってしまった。
「本当にいいのか!?腕がなるぜ、久々の任務だ…!」
こんなに輝いてる中也さん、初めて見た。
そんな気がする。
今の私じゃ、彼を満たしてはあげられない。
どうしたって、彼を喜ばせてあげられない。
それなら、せめて彼の邪魔だけは…幸せを奪うようなことだけは。
「ジイさん先行っちまったよ…んじゃ、先に行って待ってるからな!」
『…もしかして私も行く流れ?』
「えっ、てっきりそうかとばかり…」
『どうしようかな…中也さん行くなら私がついて行くまでもないような気がするんだけど』
久しぶりだし、めいいっぱい暴れさせてあげてきてよ。
なんて上から言ってしまえば、“いつものこと”だから何も疑問には思われない。
知ってる、目を見れば…言葉を交わせば、分かる。
どうすれば正しいのか、どういうのが普通なのか。
間違いさえしなければ、疑問になんかならないのだから。
「俺のイメージどうなってんだよお前ん中で」
『喧嘩好きじゃない。私、エリスちゃんとお話しておくし』
「ああ、そういやまだ会ってないんだっけか?…分かった、じゃあお言葉に甘えさせてもらうことにするわ」
立原達も広津さんの行った方へ向かっていき、首領室の中で首領と対面する。
ああ、こんな感じだっけここは。
…私がいなくても、成り立つ世界。
私がいなくても、問題も何も起こらない世界。
記憶を少し取り戻すにつれ、疎外感だけが、私の胸の中を満たしていくだけだった。