第28章 少女のいる世界
『わ、たしの…そ、の…ッ……、兄、のことは…?』
「それも聞いた。お前から…今旦那って言ってんのが答えだよ」
『!!!…い、やじゃ…ないの…?こんな、…私綺麗な子じゃないんだよ?…好きな人、だって…私、貴方に出会う前に愛してた人だって…!』
「それも、知ってる。…でも、“蝶”は…今は記憶はないけど、俺がいいんだってここにいるのを選んでくれた。だから俺も、一緒にいる…今の状態のお前にまで強要するつもりはないけど、それでも俺は構わない」
本気で好きな人がいない中で過ごし続ける方が、人間辛いしよっぽど孤独なんだから。
なんて言いながらこっちに近付いてきて、ドアの目の前で立ち止まる。
顔を見られないように、必死に声も絞り出して、この人の懐の広さに少しだけ恐怖した。
『わた、し…いっぱい、ほかの男の人に……触られ、たし…襲われて、たし…』
「うん、知ってる…嫌な時はちゃんと嫌だって言ってたのも、それで俺の元から去っちまおうとした時だってあったのも」
『!!!っ、なんで…?なん、で…こんなの、なのに……貴方は、綺麗で一途な人、なのに…ッ』
「他の誰でもないそんなお前に一途なんだ…そんな綺麗なお前だから、一途になっちまったんだ」
俺を一途にさせたのは俺じゃない。
お前だよ。
酷く優しいその声に、抑えきれなくなって泣きじゃくった。
目を擦っても涙が全然止まらなくて、しかしそれでも、嫌じゃない。
嬉しかった、ただひたすらにそれだけだった。
私を認めてくれた…それでも一緒にいてくれた。
私を離さないで、ずっと隣にいてくれた。
やっと出逢えた、そんな人に。
捩摺だけじゃ…自分だけじゃ、なかった。
私を見てくれてる人が…私を見つけてくれた人が、ちゃんといた。
「…開けていい?俺、一人で泣いてるお前のことほっとけねぇんだわ」
『…ッ、だ、め…!』
「ダメ?…そっち、入らせて。抱きしめてやりてぇし…ちゃんと撫でてやりたい。一人で泣いてちゃだめだろう?」
____一人で泣いちゃだめだからね!
____一人で死ぬのは、絶対ダメだ。…一人で泣くのも、絶対にダメだ。
同じようなことを、言われたことがある。
一つは…思い出した、トウェインさんから。
もうひとつは、私の…私の、本当の家族だった人。
海燕さんからの…
一つ頷くと、大好きなあたたかさに包み込まれた。