第28章 少女のいる世界
『!、知られ、て…知ってる、のに私と…?…意味分かんない、なんで…私…っ』
違う、修学旅行でだけじゃない。
何度もあった、そんなこと。
この世界にきてから、何度も何度も経験した。
それから…その度に彼は、私を抱きしめて、怯えなくていいと言ってくれた。
そして私が、紅色の滲んだ純白だったドレスを身に纏っていたその時に…海に夕日の沈みかけるその時に、彼から生涯を改めて誓われたのだ。
いろんな人達のいるところで、体の隅々までキスされ、愛を誓われて。
色んな場面が駆け巡る中で、私はようやく思い出したことがある。
彼が私に愛を誓った?
いや、違う…先に誓っていたのは私の方だ。
先に彼に愛を表していたのは、私の方だ。
私、“この身体に”なってから…小さな小さな器の時から、彼のことが好きだった。
もう誰も好きになんかなるもんかって、思ってたはずだったのに。
尽く皆いなくなるからって、そう決めてたのに。
彼は今、そこにちゃんといる。
…確かめなきゃ、どこまでこの記憶が正しいのか。
『…あり、がとう捩摺。……大丈夫、怖くないよ…何かあった、ら…また、捩摺がついててくれるから…』
「!…任せろ」
歯を見せて笑ってから、リビングへのドアを少し開け、そろりと中也さんの姿を目に入れる。
『ぁ……、あの、中也…さ、ん…』
「!終わったか?丁度こっちもいいぐらいになったところだ」
心臓が、バクバクする。
どうしよう、もしも私の頭が、都合のいいように記憶をすり替えているだけだったらどうしよう。
生前の私のことを、この人がもしも知らなかったらどうしよう。
『……あの、…中也さんって、私のこと…どこまで、知ってるの?』
彼の笑みが少し消え、しかし私の心配とは裏腹に優しい表情で、困ったように返してくれた。
「どこまでって…、困ったな。…何か、聞きたいことがあるのか?」
『…私が、他の世界から来た人間だって話した…のは、間違いない?』
「!ああ、ちゃんと聞いた…気にせず話してくれて構わない」
『じゃ、あ…私が死ねないってのも知って…?』
「知ってる」
彼の言い切ったその一言に、酷くまた胸がしめつけられる。
迷いもなく、彼はそう言った。
どこまでのことを知られているのだろう。
私…正確には紅姫は。
一度、その主へ本気で恋心を抱いていたことがある…その事も?