第28章 少女のいる世界
『は……っ、♡…ぁ…♡』
「抵抗、しねぇの?」
絶え絶えになった呼吸で…跳ねしきるからだを彼のベッドの上でぐったりとさせながら、なんとか縦に首を振る。
すると私の手に絡められていた彼の指が片方離れて、今度は唇を指でなぞられる。
それにまたビクッ、と反応すれば、彼がまた私に質問する。
「なんで?…抵抗してくれねえと俺、お前にどこまでするか分かんねえよ?」
『そ、な……の、…できな、…っ』
「…お前はキスするのくらい、拒もうと思えば噛むなり押しのけるなり蹴り飛ばすなり、氷漬けにするなりして抵抗する奴だからだよ」
今は氷漬けはできないかもだけどな、なんて言う彼に、酷く胸がまたしめつけられた。
抵抗、して欲しいんじゃない。
やっぱりそうだ、中也さんだって不安なんだ。
記憶がなくても私といたいだなんていうのは、本当に彼の本音でしかなくて。
『……拒もうとして、ないから…って言ったら…?』
「んなこと言われたら……俺、朝んなるまでずっとこうしてられっけど?……流石に今日は寝かせるけどな」
『ぁ、…っ♡』
触れるだけのキスをしてから、彼は私に布団をかけて、自分も私の隣に入ってきた。
それから私の上体を少しだけ手で浮かせてから、そこに自身の腕を敷く。
そこに私の体をまたゆっくりともたれさせ、そのまま抱きしめて、包み込んでくれた。
「お前が一人で寝るのが無理だって…怖いって知ってんのに、お前に甘えて突き放そうとした。ごめん………、でも、次またこんなことがあったら、一人で泣いちまう前に俺に言ってくれ。なんでも聞いてやるから」
『…ほん、とう?』
「本当。さすがにお前に無理させるようなもんなら、状態を見て判断するが…お前のお願いなら、俺はなんだって聞いてやる」
その言葉を聞いて、安心した。
だから私は一言、聞いたのだ。
『じゃあ……誰?誰に…脅されてるの?私といなくちゃ、殺すって』
「…脅しじゃなくて合意の上だっつったら?」
『困惑する…けど、相手の方が重要。もしそんなことするような奴がいるなら……私が先にそいつのこと、殺してやる』
何故か、覚悟を持って、殺すと言う言葉を口にできた。
それくらいは、当然だと言うように。
しかし、私はその人物の名を耳にして、また酷く彼を愛しく思っただけだった。
「…それを誓った相手は、中原蝶…お前だよ」