第28章 少女のいる世界
「はい、中也君。今日何日か分かる?」
「…蝶の卒業式?」
「残念、卒業式は終わりました…君何日寝てたと思う?」
「三日くらいですかね」
「二週間なんだよねぇ…正確には十六日!ねえ、本当に死んじゃったかと思ったんだよ!!?もうっ」
蝶の卒業式は、終わっていたらしい。
もったいねぇ、見逃したか…
目の前にいるのは俺の所属するポートマフィアの首領こと、森鴎外。
俺と蝶の大恩人だ。
「君が蝶ちゃんのことになると独断行動するのも知ってたよ?まさか黒蜥蜴や芥川君達までついてっちゃうだなんて非常に予想の範疇だったわけだけど?許可出したけど?ねえ」
「…すみません。ありがとうございました」
「……それで誰かに何かあったら、僕はそれこそ気が気じゃないんだからね。…よく、帰ってきてくれた」
「………!…蝶は?」
「君はいつでも蝶ちゃんだねぇ…三日ほど前に意識は戻ってる。ただ、今は精密検査を受けてもらっているんだ」
精密検査…その言葉に引っかかった。
「精密検査って…いったい、どこで?」
「ん?普通の病院で」
「普通の…って、大丈夫なんですかそれ!!?」
「うん。それがさぁ、中也君の血液を輸血してたでしょう?…あのあと、穴が塞がるの、人並みに時間がかかってたんだよ」
初めて知った事実に衝撃を受ける。
それは、つまり…蝶の傷の治りが、通常のスピードになっているというわけで。
本当に、願いがかなってしまったとでもいうのだろうか。
確かにその理さえ普通になってしまえば、尸魂界が異端な魂だと識別する必要もなくなってしまう。
まさか蝶の気にしていた体質までそうしてくれてしまうとは…ああしかし、そうなると更に怪我には注意が必要になる。
ただでさえ危なっかしいのに、あいつ。
「彼女の身体が危険だと判断するレベルのダメージには、反応があるだろうって浦原さんが。身体を治す時に彼女の体質もちゃんと機能していたらしいから」
「!…なる、ほど……あ、でもそれなら、血液は…?」
「さすがにそれはほかの子じゃあダメだったよ、サンプルで試してみたけどダメだった」
「……会いに行って、いいですか?」
「…その前に中也君。話がある…聞いてくれる?」
首領の声に、少し現実に引き戻されたような気分になる。
何となく、察しはつく…蝶のことで、何かあったのだろう。