第28章 少女のいる世界
三日前の事だ、と首領は話を始める。
個室で俺と蝶は、それぞれ生体管理をされていた。
そして、三日前の朝に、突如アラートが鳴り響いたらしい。
急いでカメラを確認すると、たった一つ…変化があったのは、蝶の個室。
そのベッドの上に、彼女の姿が映っていなかった。
それからすぐに彼女をカメラで探していけば、開け放たれている扉が一つ。
アラートのなった原因のそこ。
その部屋に、黒蜥蜴や部下達…そして、首領も集まった。
ゆっくりと中に入ってみると、真っ白な髪を揺らして、少女はそこに立っていたらしい。
「…なんだ、君か。目が覚めたんだね…歩いてももう平気かい?一度診察をしよう、あと検査も……、?」
しかし、首領が話しかけても俯いたままで動かない。
そして動いたかと思えば、少し奥へと進んでから、一人で寝るには大きすぎるそのベッドの上に乗って…そばにあった黒い外套に全身を包んで、蹲ってしまったのだという。
「どうしたの、そんなところに蹲って…大丈夫、中原君も生きているよ。今は少し眠ってしまっているけれど」
『…ここに、いちゃ……ダメ、ですか…?』
久しく聞いたその鈴の音のような声に、一同は安堵したそう。
「いいや、構わない。ただ、君の身体が心配だ…ご飯と水分をちゃんと補給して、それから状態も見ないと」
『……ここに、いたい…一人でいたいんです』
「…一人で、っていうのは聞いてあげられない。ご飯は食べてもらわなくちゃだから…誰がいい?」
彼女に指名させようとした。
俺がその場を見ていたならば、恐らく蝶は、間違いなく立原を選ぶと考えただろう。
首領もそうだったという。
しかし、彼女は誰も指名しなかった。
誰も、指名できなかった。
『………誰、なんですか…?あなた達……、いい人?それとも、怖い事する人達…?』
「!!…ああ、それなら仕方ないね。…僕は森鴎外。表向きは町医者をしている……本業は、ここ…ポートマフィアを束ねる首領なんだけどね」
『!マフィア、……貴方は、私を利用する人…?』
「ううむ…たまに協力してもらったりはしてたかなぁ。でも、僕が君のことを利用なんかしようものなら、いつでも君を助けてくれるナイトがいるからね。君に怖い思いはさせないさ」
その時の少女の瞳は、初期の頃のような怯えた色もなく、ただただ澄んだ色をしていたらしい。