第27章 飢えて枯れてなくなった
『ぁ、のね…っ、……蝶、ね…その…』
「…震えてる。もっとちゃんと抱きついてこい、俺はお前のものなんだから」
『!!…、ん…』
ぎゅう、ともたれかかりきるように中也のからだに自分のからだを預けてしまえば、それでも彼は軽々とそれを受け止めて、しかし大切に私を抱き締め返してくれる。
「で、どうした?…俺に、何かお願いがある?」
私にゆっくりと呼吸をさせた後の彼の優しい優しい声に安心して、喉をなんとか震わせる。
『…わ、たし……、生まれ、変わっても…“蝶”がいぃ…ッ』
「……どうしたんだよ、突然そんな話」
ぽん、ぽん、と撫でられる背中に、ぶわっと涙がまた溢れる。
それを隠すように彼の肩に顔を埋め、想いを全て打ち明けていく。
『だ、って…、死んじゃったら私…ッ、中也さんの好きな蝶じゃなくなっちゃう…!死ねる、のも、嬉しいけど…中也さんの蝶がいいのに…ッ』
怖く、なった。
恐ろしくなった。
本当の意味で、“蝶”が死んでしまうことに恐怖したのだ。
「…俺と生きる道を選んでくれるってんなら、次も…その次も、何度生まれ変わって何度俺のところに来てくれても、何度だって愛してやるさ」
『っ、でも、でも蝶は…!』
「そんなに好きになってくれた?自分のこと…嬉しいな、お前がそんな風に感じてくれるようになってたなんて」
中也の声に、目を見開く。
あれ、そういえば…私、いつの間に…?
「…俺がお前に新しく名前を付けたのは、お前に自分のことを大事に思ってほしかったからだよ。それができるようになったってんなら、後はお前の“お願い”を聞いてやるだけさ」
『…、?…ど、ういう……』
「もうお前、自殺しようとなんかしないだろ?大事にしてくれるんなら、それでいいっつってんだ…名前や呼び方なんか、そもそも個人を識別するための道具みたいなもんなんだから」
お前にとってかけがえのない楔になれたなら、名前を付けた甲斐があったってもんだよ。
中也の顔を見てみると、くしゃりとした笑顔を浮かべていた。
「成長したな、本当に。…いいのか、紅姫でも澪でもない呼ばれ方でも」
『!…お願いしたら、また中也さん…呼んでくれる…かな、って』
「…喜んで聞くよ、お前のお願いなら。…ただ、別の名前がいいっつっても知らねえぞ?俺はやるっつったらやるからな」
『なら、安心だ……へへ…、』