第27章 飢えて枯れてなくなった
両手で抱きしめて背中を撫でているうちに、少女の寝息が聴こえてきた。
「…お前、こういうことは尸魂界でも?」
「その頃は全然ダメだった。俺は元々兄貴に似てたから、そうしてやりたかったんだが……下まつ毛が違ぇって事でいつも結局、独りで泣かせることしか出来なかったんだ」
初めて、ようやく純粋に笑顔にできたのは、数週間前。
寝惚けて一瞬目を開けた時、本物の志波海燕と間違えて名前を呼ばれたことがあった。
…下まつ毛、なのか。
「こんな部位伸ばすの、尸魂界の技術じゃ何十年かかかるからな。二千年分は仕事したさ…これくらいしかしてやれねぇが」
「お前も相当良い奴だよな?」
「馬鹿言え、俺が良い奴だってんなら、それは魂の持ち主であるこいつがそれだけ優しい奴だってことだ。……そういうことさ」
本人の感じる孤独や罪悪感。
優しすぎるが故に感じてしまうその突き刺されるような痛みを、そのまま理解してやれるのは、こいつくらいのものなのだろう。
「ま、蝶らしいっちゃそうか。…んで、気になってたんだが、都って?」
「流石に知らないか……嫁だよ。志波海燕の」
「……なるほど、な」
捩摺…蝶の魂。
流石、こいつの魂なだけあって、どうすればいいのかよく分かっている。
そしてそう考えれば考えるほど、いかに織田が蝶にとって大切だったかが今更ながらに、今度こそ痛感できてきて。
「…なんで、俺を選んでくれたんだろうな。こいつは」
俺は、そこまでしてきた人間じゃない。
それこそ、織田からの助けがなかったら、今頃一緒にいるかどうか…
「そんな事も分からないのか?お前の言う、姫にとって大切な奴らがどれほどのものかは…まあ想像はつく。けど、“こいつ”に真っ直ぐぶつかっていったのも、逃がさなかったのも……最初にちゃんと見てやったのも、あんたなんじゃねえの?」
最初…いや、しかしそんな奴なら他にもたくさん…
そう考えて、やめた。
思い出した、どうして志波海燕がそこまで大切だったのか。
「…わかったか?自分がどういう存在なのか…少し関係性は違っているが、兄貴がもし生き続けていれば恐らく近しい程の存在だ」
本当に独りなってしまったそんな時、自分を離さずいてくれた。
しっかり見て、真っ直ぐ向かい続けてくれた。
…そこ、だったのか。
「……甘えんのが遅ぇんだよ、本当に」
「全くだ」