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第27章 飢えて枯れてなくなった


酔っていても律儀に全員へ向けて礼を言った蝶を、車で家まで連れて帰る。
帰る最中、後ろに乗せた捩摺はどこか遠いところを見ているようだった。

『ただいまぁ…』

「ん。頭痛かったり気分が悪かったりしないか?」

『大丈夫…ちゅうやさんがぎゅってしてくれてるから大丈夫なの』

「そうか…横んなる?」

『…か、いえんさんは…?』

「来てくれるってよ」

ふにゃりと気の抜けたような笑みをもらす少女が、どこか儚く見えた。
今にも消えてしまいそうで、俺の手の届かないところに行ってしまいそうで。

ベッドに運べば隣で横になるよう指示されて、俺と捩摺で蝶を挟むように横になる。

記憶にも残らない、特別な時間。
周りが唯一、蝶に最大限尽くしてやれる、特別な。

酔っているという状態を、まさかこんな形で活用出来るだなんて。
言い方はあまりよくはないのだろうが、こうでもしなきゃ、記憶が残っているだけでも蝶は罪悪感に押しつぶされて死にたくなるほど脆い奴だ。

みんな分かってる…捩摺が一番、近くでずっと見てきている。

『あのね海燕さん、私こうこうせいになるんだって。いちご君やおりひめちゃん達と一緒』

「お前の制服姿が拝めるなんて夢にも思わなかったな。立派じゃねえの」

『えへへ、なでなでして』

「…ほんと、好きだよなぁ」

『ん…、っ、好き……、ッ』

ゆったりとしていたはずの呼吸が、途切れ始める。
ああ、苦手だ。

聴いているだけでも胸が張り裂けそうになる。
俺は部外者なはずなのに、胸が痛くて痛くて仕方がない。

この小さな小さな少女の向ける表情が、俺にはちゃんと見えている。

なんで、それを向こうに向けない?
…向けないんじゃない、向けられないんだ。

無意識のうちに、向けたくないと体がそれを拒んでいるんだ。

『か、いえんさ…、…ぁ、のね…?…今度、は……、いつ会える、?…も、う…千年くらい、会えてなかったの……、“ここ”じゃなきゃ、会えないか、…』

「待たせすぎちまったな、謝るよ……次はいつだろうな。でも、きっとまた会えるさ。俺の“心”は、お前に預けてあるんだから」

『ッ…、ん…、……っク、…ひっ、…』

泣きじゃくるその涙を拭うこともせずに、体も喉も震わせて、ただ少女は泣いていた。

ここでしか会えないと、分かっている。
少女の“夢”の中でしか、もう…
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