第27章 飢えて枯れてなくなった
「ぼ、っぼぼぼぼ僕マチェドニアっていうもの知らなくて!!」
「いい、人虎。手前は悪くねぇ…だがあいつは一発殴らねぇと気がすま『離れちゃう…?』さなきゃならねぇ時もあるよな蝶、安心しろ離さねえから」
腹を抱えて笑う成人済みの探偵社員共。
まんまと嵌められた、間違いなく太宰の野郎の思惑は“これ”だ。
『じゃあプリン食べたい。食べさせて』
「それはいいが…取りに行かなきゃなんだが、立ってもい『だぁめっ』……おい、誰か」
「…しゃーねえから手伝ってやるよ、あまりにも不憫だ」
浦原さんや平子、トウェインに至るまでもが敵に回ったところに現れる捩摺。
こいつ良い奴だ、めちゃくちゃ良い奴だ。
プリンを五瓶ほどこちらに持ってきて、俺の膝の上でゴロゴロと猫のように甘えこけている蝶にプリンを見せる。
が、そこで更なる異変が生じた。
…いや、正確に言えば、一度だけ見たことはあるのだが。
吸い込まれるように伸ばされる蝶の細い腕。
それが伸ばされたのは、プリンが入った瓶…ではなく、捩摺の頬だった。
『…久しぶり、』
「……久しぶり」
「!…久しぶりって、お前こいつのこと毎日「馬鹿平子、手前今は黙ってろ」中也!?」
交わる視線に、お互いが慈しみあっているのがよく分かる。
ああそうか、それで捩摺はあまり蝶の方へ顔を向けなかったのか。
酒のある席…だけでなく、洋酒付けの品があるようなところでだって、蝶は簡単に酔ってしまう。
拗ねていたわけでもいじけていたわけでもない、分かっていたから見せなかった。
その顔を。
「澪、お前こんなに甘いもんばっか食ってたらその内中也に逃げられるぞ?」
『……澪、?』
「…蝶の方がいいか?」
捩摺の返しに、ふるふると首を横に振った。
俺と浦原さん、そして話を少ししてあるトウェインには伝わっている。
何を求めているのかを。
「…蝶、“こいつ”と三人で今日のところは家に戻るか」
『もう帰るの…?三人で?』
チラリと捩摺の方を見る蝶に、そうだな、と笑うそいつ。
いたたまれねぇ、本当に。
こればかりはどうしようもないレベルの執着なのだろう。
だから…多分、そのためにも捩摺は、こうまでしてその容姿を近づけたのだろう。
無意識のところでは求めてしまうから。
求めたいから…求めたかったから。
『ん、じゃあいいや…海燕さんも一緒…♪』