第26章 帰郷
『…私にそこまでボロボロにされててまだそんな減らず口叩けるの?…別に貴方と離れるだとか尸魂界に帰るだとか、そんなことをお願いしたわけでもない…本当に大したことじゃないの、お願い。楽にさせてよ』
「断る…お前、そういうのは俺の力で楽にさせてやるもんだろうが」
中也の左手が動いて、私の右肩に乗せられる。
彼の発した言葉に思考が停止したように頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなった。
「…俺はお前のもんなんだ、先にいいように使ってみろや。……そんで、辛いこと吐き出す時はちゃんと泣け…怒れるようにはなったんだ、あともうちょっとだろ」
『!…ッ、馬鹿じゃ、ないの…?なんで…、なんで離れないのよ…なんでまたそうやって優しくするの…っ』
「だってお前が悲しんで泣くの見たくねえし…これ以上泣けねえようにしたら誰が元に戻せんだよ。…お前俺に直接攻撃したのなんか斬魄刀で突いた分くらいだし優しすぎんだよ、俺相手に。もっとわがまま言えっての」
『な、んで怒らないのぉ…ッ』
捩摺を外してそれを溢れさせると、中也は上体を起こして私の背中をさすり始める。
「反抗期が来たんだ、怒る以前に嬉しすぎて感動してるわ」
『親馬鹿…ッ、馬鹿、私より弱い癖して阿呆、鈍間っ』
「めちゃくちゃ言うなお前?…死神の力があるのと無いのとじゃ、やっぱり全然違うんだな…けどやっぱり俺に敵ってねえじゃんお前」
……どうして欲しかったの?
喜助さんの言うような口調で、小さな声で私にそう聞いてきた。
『………、っ…わ、たし…に……、もっと、…妬け…ッ』
「…なるほど…困った姫さんだ……って、あ、あんま使わねえ方がいいんだっけ?……よーしよし、分かった、よォく分かった。…分かってねえなぁ、大人は隠すのが少しばかり上手いだけなんだよ」
『!!…、な、…え…?』
「めちゃくちゃ妬いてるって分かんなかったろ?折角の家族との再会に水指したくなくて自重してたんだよ…いいのか?本当に…一日待ってって言わなくても」
『あ、ぅ…ぁ…、…ち、ちょっとだけ手加減して貰えた方、が…い……ッ、…?』
急激に安心したせいか、糸がプツリと切れたように意識が遠のく。
頭が何かの重圧に押しつぶされるような…
「…蝶?……ッ!蝶、おい!!!」
「!澪!!!貴女、やっぱり全部使いきって…ッ!!!?」