第26章 帰郷
『……元気そうね。降参する前に意識なくなるんじゃないかと思った』
「言ってろ、俺がてめぇなんぞの攻撃で意識飛ばすかよ」
『…その気になれば飛ばせるって知っててそういうこと言って…いいの?』
「じゃあとっととその気になってみせろや」
『!、…気が向いたら使ってあげる』
敗北条件は、相手に屈服すること。
戦闘不能になることでも怪我を負わせることでもない。
ましてや死亡なんてさせたいわけじゃない。
これはどちらが根負けするのが早いか…それだけの勝負。
捩摺を構えて走り、動きの鈍くなった中也の鳩尾に柄で突く。
それは流石に急所だったのか、彼は一瞬よろめいて後ろにふらついて下がる。
『とっとと降参したら?いいじゃない、貴方にとっては大したことないことなんだし…そんなに意地にならなくていいんじゃなくって?』
「ッ、チ…っ……、意地じゃねぇよ、この反抗期娘が…俺に許可取らずにいじろうとすんなっての…!!」
『…ッ、…!』
「…っ、は、…どうせ避け…は、____!!!!?」
中也が忍ばせていたサバイバルナイフを、異能を使ってこちらへ向かって見えないほどの速度で投げてきた。
…見えなかった。
しかしそれは、避けられなかった理由にはならない。
気付いたらそれは私の腹部の肉に埋まっていて、それを確認してから肉を裂かれ、血管や内蔵の焼き切られる感触が脳へと伝わって激痛が走る。
思わず体制を崩すも何とか膝を着かずに耐え、能力でナイフを遠くへ飛ばす。
『…ッ、ハ、…っ、カ、…ッ……、それ、だけ?…知ってるでしょ、そんなんじゃ…、…無かったことと、同じなんだから…!!』
塞がりきった傷口に残る痛みに耐えながら、回し蹴りで中也の脇腹にダメージを与える。
そのまま少し飛んだ先で腰を地面に着いた彼の上から飛び乗って、喉元に捩摺を突き立てる。
『……どうしたのよ、もう終わり!?何、さっきのくらいで怖くなった!!?あんなので怯むくらいなら、一緒にいるのなんかやめちゃえば!!?』
荒い呼吸を繰り返す口から、酷い言葉ばかりが飛び出していく。
言ったら嫌われるだろうか、じゃあどうして私は我慢できないのだろうか…
ああそうだ、私はこんな事を思っていないから言えてしまうんだ。
「…、止めろ、蝶…ッ」
『何を止めるのよ、そんなに言うならとっとと降参すればいいじゃない!!』
