第26章 帰郷
「そういやお前さん、コート着てなかったか?どないしてん?」
「あ?…ああ、それなら……まあ、すぐ分かるさ」
携帯でメッセージを送ってみても返事がない…それどころか既読もつかない。
これは、と察しがついたところで、思わず可愛らしさに笑みがこぼれる。
「ぷ、っ…ははっ、悪い。あいつのところまで連れてくわ…太宰、探偵社の方は手前がもう解散させてくれ。うちの連中は連れて戻る」
「なに?いつから私に指図できるようになったの牧羊犬のくせに」
「誰が牧羊犬だ!!!…って手前聞いてんのか!!?」
「聞いてますん」
「どっちだよ!!」
軽く言い合ってから、浦原さんと平子…そして朽木と松本を連れて、車に乗せる。
なかなかの大所帯だが、まあ芥川や立原は自力で戻れるし、蝶は執務室だしでなんとかなった。
芥川の妹が先に首領に話を通してくれたらしく、中へ案内するのも容易くて安心した。
ここで手続きが面倒だと、蝶の元へ行ってやれるのがいつになるか分からなかったから。
歩いて行くと執務室にたどり着いて、中に入ると俺の外套がソファーに置いてある。
「おお、こんなところに置いてきて…あ?なんや、下に何か…!」
「あら…か〜わいい♪」
「やっと気が抜けたんですかね…中原さん、育児の才能がおありでは?」
「俺じゃねえよ、残念ながら…」
俺の外套にくるまったまま眠りについている蝶の頭をぽんぽん、と撫でれば、途端に彼女の表情が柔らかくなる。
『ちゅうやさ…、…ん〜…♡』
「…こいつかなり今機嫌いいな…どんな夢見てんだよ」
にへら、と嬉しそうな顔をして俺の名前を寝言で呼ぶ蝶に、一同衝撃が走る。
「あ、あんたッ…れ、れれれ澪がこんな表情を…!!?」
「白石…いつぶりだ、このような表情を浮かべるのは」
「おいおいおい、こいつほんまに澪か!!?おまっ、…なんやさっきまでくっそ可愛げなかったのにほんま!!!」
「澪さん!!!?そこは僕の名前をおおお!!!!」
最後だけなにかおかしかったのは気のせいだろう。
『ん…、?…中也、さ…、れ…?』
「!…起こしたか、悪い…落ち着いたか?」
『う、…ん…、…!!そうだ、話はどうなって…!!』
平子を視界に入れて、蝶は目を丸くする。
「…ここに来てるってのが、十分な答えだろ?」
「……そういうことや、このドアホ」