第26章 帰郷

『…阿呆が阿呆って言うな、頭悪いくせに』

｢誰の頭が悪いねん、誰の！？｣

『中也、こいつ部屋の外に出しといていいよ？煩いから』

｢お前俺の扱い…っ！！｣

あれ、おかしいぞ。
こんな予定じゃなかったはずなんだが…

｢…お前照れ隠ししてねえ方が可愛いのに？｣

『やだもう中也さん大好きっ…♪』

「お？…ｯうお、っっ！！！？」

能力を使って突然俺の背中から抱き着いてきた蝶を何とか膝を崩すことなく耐える。
心臓止まるかと思った、殺す気かこいつ。

『………ありがと…ありがとう…』

｢！…ったく、なんで真っ先にこっちに来るんだよ…おまたせ。どういたしまして｣

俺にだけ聞こえるように、耳元で細い声を震わせて必死に礼を言う蝶。

『中也さんいなかったら、会えもしなかったかもしれない…中也さん大好き…絶対離れないから』

ぎゅう、と大事そうに俺を両腕で抱きしめる蝶の心情は、俺ごときでは想像もつかないようなものなのだろう。

｢…行きたいところに行ったっていいんだぞ？離してやるつもりはねえけどな｣

矛盾した付け足しに、蝶が涙声で嬉しそうに言う。

『ここにいたいの…離したら、許さないんだから』

｢…その素直さ平子にも向けてやれよ、折角……ああ、そうか、お前さては恥ずかしいんだな？｣

『…別に』

図星だったか。

｢…んじゃ、俺は暫く首領に細かく説明するのと、こいつら連れて紹介してくるから…平子、手前ここでついててやってくれ｣

『な、っ…え、あ…』

｢お、俺は紹介せ｢さあさあ皆さん、行きましょっか♪澪さん、また後で来ますからね！！！｣き、喜助！！？｣

空気を読めない阿呆約一名を置いて、蝶に外套を預けたままソファーにおろしてやる。
すると俺の方をまだ焦った様子で見つめるのだが、多分こいつの場合はこういう方法をとってでも二人きりにしてやった方がいい。

周りの目が…特に俺の目があったら、甘えられないのだろう。

｢………事故じゃないキス三回までなら何も知らねえぞ、俺は｣

『…舐めてる？』

｢いいや？…ただ、あんまり気負わなくてもいいぞって言っててやらねえと、お前すぐ気にするだろうと思って｣

まあ三回以上は禁止だけどな、じゃねえと後でやめてやれなくなる。

なんて口にして笑いかけ、全員の目の前で、しかしごく自然に…触れるだけの口付けを落としていった。