第26章 帰郷
「関係が拗れるにしたって、お前ばかり悪役買って出てそんなこじらせ方させなくたっていいだろ…言ってみてもしもお前が心配するような状態になっても、お前は一人にはならねえよ」
『…真子に嫌われたら、私自殺しちゃいそう』
「!…お前、何を言うて…」
零れた本音に、平子が冷や汗を流す。
『殺してくれる?中也が…言ったよね、自分みたいな存在の人間だって。それなら、分かってるよね?こっちが…どれだけ言いたくないか……どれだけ怖いか』
「知ってる。…分かった、それなら約束通り、俺がお前を殺してやるよ……けど、交換条件だ。もしそうなったとして、俺がお前を殺す時…お前も同時に俺を殺せ」
その場の空気に衝撃が走る。
正気なのか、と目を見開く連中。
先程まで冷静沈着だった浦原さんや朽木までもが、席を立つほどの。
『…なんでそんなこと言いきれるのよ』
「少なくとも、お前は卒業シーズンまでは死なないってことが確定してるからだ」
『!!!』
それはつまり、この場で蝶のことを暴露しても、蝶が死ぬような方向へ話は進まないということ。
…こいつが死ぬような事態には陥らないということ。
『…パソコン取りに行く。中也…は、ついて、きて?』
「…勿論だ。話し終わったら…ご褒美やるよ、なんでも言うこと聞いてやる」
『う、ん…聞かせてあげる』
くしゃ、と頭を撫でれば蝶は扉を作り、俺の執務室へと繋げてくれる。
それから中に入って、俺の記憶と、粉々になったパソコンだったものを使って…データごとパソコンを、復元していく。
探偵社の方では今、あいつらはどんな心境でいるのだろうか。
…俺は、どうして想い人の本来の初恋相手に塩を送るような真似をしているのだろうか。
『……キスは?…消毒しなくていいの?』
復元しながら、そんな声が発せられる。
「消毒?」
『…真子に、“事故”で奪われてるんですけど』
「……そりゃあ、大問題だな?…お前その為に二人になりやがったな?さては…もの好きめ」
俺以外に、ここまで話すのをしぶる相手が…自殺を図ってしまうほどの相手が、いたなんて。
ちゃんと、いてよかった…そんな人間が、世界中のどこを見ても、俺一人っきりじゃなくてよかった。
こいつが、独りじゃなくてよかった。
扉からパソコンを持って俺だけが事務所へと戻り、平子と対面する。