第26章 帰郷
蝶が俺にここまで反論してまで話したくないだなんて…よっぽど心を許していない相手……でないとすると。
「…お前、どんだけあいつのこと好きなんだよ…記憶無くしてた俺相手レベルに必死じゃねえか」
「は?…どういうことや、それ」
『…好きじゃない、嫌い…嫌いになったの、だからいい。何も話さなくて』
嫌いと言って嘘をつくのもわかりやすい癖だ。
俺も同じように言われてた…大嫌いだと、言われてた。
けれど、その後彼女は素直になって俺に、大好きなだけだと伝えたのだ。
好きだから、大切だから…だからこそ、言いたくないことがある。
知られたくないことがある。
しかし、それでも…百年以上も耐え続けてようやく再会できたのに、これじゃああまりにも誰もが報われない。
蝶だって…まだ、“一度も泣けていない”。
「…じゃあ、データを復元してくれ。そうしてくれれば俺が全て伝えられる」
ピク、と反応した蝶から、俺に少しだけ向けられた殺意にも似た悲痛な感情。
どうしてそんなことをするの?
どうして、秘密にさせてくれないの?
訴えかけてくるその目はもう泣きそうで、見ているこっちも辛くなる。
「お前の意思を無視してまで伝えていいような事じゃないのはわかってる。だからこそ、お前がそうしてくれ…やろうと思えば、浦原さんに頼めばできちまうんだろ?」
『…中、也は…なんで、』
「…そうしないと、いつまで経っても甘えられないじゃねえか。お前が…あいつに」
浦原さんは、恐らく色々と知っていた。
蝶を生み出した張本人だから。
しかし、多分それ以外の連中は何も知らないのだ…元の世界で、蝶が死んだことは一度もなくて。
『……誰も疑問に思っても言わないのよ、私がこんな身体になってることに』
「…言うてちょっと若く見えるだけやんけ、お前どうせ身長そんな伸び『殺していい?』すまんて」
浦原さんも、多分色々と隠している。
蝶のために。
しかし、流石にこの世界で起きた出来事は…恐らく誰も、知らないから。
どこまでのものなのかを知らないから。
怖いんだ、自分の身体のことを知られるのが。
元の関係でいられなくなってしまうのが。
「でも、だからってそのまま関係を切っちまう気か?折角会えたのに…忘れたかよ、しつけぇ男はここにもいるんだぜ?」