第25章 収束への旅路
「ありゃ相当キてるねぇ蝶ちゃん…そんなに嫌か、相手が太宰でも」
「そりゃそうでしょ乱歩さん、蝶ちゃんですよ?」
「そうだったな……与謝野先生、煽りに行ってみる?」
「妾がかい?…いいねぇ、面白いことになりそうだ」
探偵社は探偵社で何やら話しているようだが、人虎と谷崎兄と元ポートマフィアの泉とやらは、何故か口角を引き攣らせていた。
『飲むの?飲まないの?……飲んでくれないの?蝶の前じゃ』
「!?い、いや蝶、それは俺が酔ったらお前に嫌な絡み方をしちまうと思ったからで!!」
『…やっぱり嫌なんだ。樋口さんとか銀さんとかと温泉に言った時には飲んだくせに』
「いや、だってあいつらと飲んだところで別に大丈『蝶の前で飲んでくれないのに』……そんなに嫌だったのかよ」
よっぽど引け目に感じていたのか、目元を潤ませながら切望する蝶にたじろいだ。
するとそこに、探偵社の女医が現れる。
「なんだいなんだい、素敵帽子?あんた、蝶の前で禁酒してたのかい?」
「そりゃ自分が記憶飛ばすことがあることくらい分かってっし、当たり前だろ…」
「えらく頑なだねぇ?…って蝶、怖い顔になってるよ…まあ、妾なら?無理矢理飲ませたい相手には飲ませるけど?」
酒を注いだグラスを手に持って、何かと思えば俺の目の前にやって来て、俺の顎を片手でクイ、と軽く上げさせる。
それに無理矢理顔を横に向けて振りほどき、睨みつけるも相手は余裕の笑みである。
…なに企んでやがる、この女。
「へえ、飲みたくないか。…酒を飲んでやるだけじゃあないか?」
「たとえ蝶の目の前で飲むにしても、わざわざ手前からの酒は受け付けねえよ俺は…分かったならとっとと離れろ」
「おお怖い怖い…けど悪いねぇ、無理矢理にでも飲んでもらうよ?」
言いながら、蝶の手からグラスを取って俺の目の前に突き出す女医。
そいつの行動に嫌な予感はしつつも、蝶の親しい奴に手を挙げられるわけもなく、冷や汗を流す。
「さぁ、あんたの大好きな蝶の注いだ酒だ…」
これを、無下に扱えるかい?
何のためらいもなく俺の口元にグラスをつけ、傾ける。
唇に酒が到達すれば、いよいよあとが無くなってきた。
手を上げるわけにもいかず、結局俺の取った行動といえば。
「……おお、これは予想外だ」
女医からグラスを奪い取って、自分で一気に流し込むことだった。
