第25章 収束への旅路
「…中也さん、これは…今日は何時間くらい?」
「あー…今でだいたい四時間くらいじゃないか?」
「四時間くっつきっぱなしって…で、そこからまた安心して寝ちまったんですか…?」
「そうだな…よかったよ、ちゃんと分かってやれて」
執務室を訪ねてきた立原を引き入れ、寝ている蝶の背をゆっくり撫でつつ、話をする。
「にしても、驚きましたよ本当。蝶があんなに泣くなんて」
「駄々こねてる幼稚園児みたいに泣いてただろ?…初めてなんだよ」
「!…初めて、って……今までになかったんですか…?寧ろ、これまでの方がよっぽど辛い目に遭わされてきて…」
「そういうことだ、俺だって気付いてやれなかった。…まあ、確かに普通に生活してて、あんなもん理解もできねえわ…寧ろそれを悟らせもせずに今まで隣に居続けた蝶が健気で健気で仕方ねえ」
恐らくこいつも、分かっていたから言わなかった。
俺も、分かっていなかった。
蝶の能力の核を身体に宿すということが…その身体を作り替えられるということが、どういうことなのかを。
どういう感覚で過ごしているのか…こんな感覚、体験せずひわかるわけが無い。
よく、それでも俺の隣に居たいと…一緒にいてくれた。
よく…俺を信じていてくれた。
「健気…はまあ分かります、けど……いったいなにが…?」
「…詳しくは言えねえが、生きてる心地がするようになったんだと。……どういう意味か分かるか?これが」
「するようになったって……え、…いや……そんなこと…?」
「…詳しくは言わねえぞ?俺は」
「……今まで、生きた心地が…しなかったってこと、ですか…?」
理由や原因は何であれ、そんなことが…?
立原は絶句したように俺に聞く。
「あれだけ幸せそうに笑ってても、自分が生きてるって実感できずにいることが多かったらしくてな。…俺がその感覚の半分を味わったわけなんだが……まあ、正直に言うと、感じない限りは理解し難いもんだこの感覚は」
「!!…味わったって…?」
「…俺は蝶や他の奴らに恵まれてるから、そんなことはないが…正直、自分の存在を認識出来なくなりかけたレベルだよ。たったの半分で」
恐らく、どんな風に説明されても、必死に訴えかけられても…例え相手が蝶だったとしても、こればかりは…
受け止めることはできただろうが、理解は多分…俺にも、不可能だった。
