第25章 収束への旅路
コク、とまた小さく蝶は頷く。
そしてそれから、俺の胸に顔を埋めてまた言葉を紡ぎ始める。
『だって…久しぶり、で。……私が、一番見てほしい人に…そんな風に言ってもらったの』
「…何年ぶりだよ、久しぶりって」
『…覚えてない』
それはつまり、そういうことで。
覚えてもいないほど昔の記憶。
恐らく、蝶に対して俺と同じようなことを言う人間くらいはいたのではないかと考えてはいるのだが…それでも、こいつは様々な世界で、他人に干渉しすぎることを恐れていた奴だ。
彼女は確かに言ったのだから、“一番見てほしい人に”見てもらえた、と。
…それは、つまり____
「……澪の親は、なんて言ってた?…俺と同じようなセンスで名前つけてくれたんだろ?」
『…ッ、…きれい、って……わた、しのこと……きれいって言ったの…!』
「流石だ、よく分かってやがる…そんな綺麗な奴が、実はこんなに可愛らしいんだ……隣において育てたくもなるさ」
『…変な色だよ?髪も…目も……肌だって、色素薄くて…』
「お前俺の目がおかしいとでも言いたいのか?俺が綺麗だっつってんだから綺麗なんだよ…他の誰にも、こんな色が似合っちまうような奴だっていないんだ」
お前だから、似合うんだ…蝶だから、綺麗なんだ。
実の家族…血の繋がった人間に蔑まれてたって、その見た目が最初の原因だって、それを肯定する人間はちゃんとこの世界にだっている。
『黒くしたことも、あったの…でも、そしたらすぐにね?戻していいんだって、泣かれちゃって…』
恐らく、澪の親のこと。
それか、最初の世界で親しかった奴のこと。
『初めて、だったの…この世界で、中也さんが……初、めて…私のこと、認めてくれたの』
存在させてくれた。
いさせてくれた。
いてもいいんだって、肯定してくれた。
どれだけ救われたか分からない…どれだけ嬉しかったか、分からない。
前ほどコンプレックスに思わなくなったのも、今伸ばし続けているのも、全て俺のおかげなのだと。
「…認めるも何もあるかよ、俺は俺の勝手でお前を攫っていっただけのマフィアだ。…それで、勝手に育てて勝手に好き合ってるだけだ」
『……うん』
そんなことが、嬉しかった。
あなたの意志であったことが、嬉しかった。
俺だって嬉しい…一番大切な存在が、俺のおかげで嬉しいと…幸せを伝えてくれるだなんて。
