第25章 収束への旅路
散々に愛情を注がれて安心させられていて、本来なら気にしておかないといけなかったはずのそれを、忘れてしまっていた。
「時間って…」
『…死んじゃうかもしれないの、私。…存在できなくなっちゃうかもしれないの…もう、あと一ヶ月もないの』
「は…?……ちょっと待ってよ、そんな話中也さん一言も……あ、れ?それ…その話…」
カルマなら、知っているはずだ。
私の寿命として表された、なんとも皮肉なあの数字のことを。
なぜなら、カルマは一緒に過ごしていたのだから。
中也が記憶を失っていたあの期間に。
卒業までもたないかもしれないとこぼしただけで、具体的な日付までは言わなかった。
しかし、もう二月なのだ…もう、卒業まで、時間が無いのだ。
『なのに、私…中也のこと分かってない……覚えておかなくちゃならないはずなのに、大事なこと忘れてて…っ』
「…、そ、れさ……待ってよ、蝶?…一ヶ月無いって…前まであんなに強気で…」
『…柳沢が、私の解析を終えたって言ってた』
ぽつり、と言葉がこぼれていく。
『私の体…どこをどうしたらどうなるか、私以上にわかってる……変な薬だってまた作ってた。…今度は、能力まで使えなくなった』
冬休み前のことを思い出す。
他に色々考えることが多くて、全然頭が回っていなかった。
『中也、が…意識、なくしてた…ッ』
「!!!」
あの中也が、だ。
“私を護るために、私なんかよりも強いはずの”中也がだ。
死にかけていた…殺されかけていた。
もし、本当に私が死んでしまうなら?
それなら…もっと、もっと知らなきゃいけないことがある。
世界で一番大切なあの人と、ちゃんと向き合えるようにならなくちゃならない。
『……ごめん、本当に…私、中学生やってる暇じゃない…思い出さなきゃ…』
「…中也さん、に…そのことは……?」
『…悟らせたら…何するか分からないわよ、私』
目を開いて、大恩のある親友へ向けて殺意を滲ませる。
しかし、それほどまでに私の中では当然のことなのだ。
中原中也という存在は、どう足掻いたところで私の中では絶対的な存在で…至高の存在で。
「っ、…怖いこと言ってるけど、嫌いじゃないよ…蝶のその表情。…すごく、きれい」
『へ…、……っっ!!!?』
こちらを見つめて微笑む彼に、思わず体を勢いよく後ろへと仰け反らせた。