第25章 収束への旅路
いつの事だっただろうか。
この世界に顕現したその瞬間に、確かに彼はそれになった。
そしてその時に、離れてしまうことになったのだ。
自身で凄まじい力をコントロールしてしまえる器…その存在と、離れてしまった時。
この世界で触れ合ったエネルギーと結合し、それが誕生してしまった。
そして、そこから生まれたのが彼だった…否、それを宿した器が、彼だった。
それの元となったもの…この世界で触れ合ってはならなかったはずのエネルギーと結合してしまったものは…___
「俺に…俺の人生における記憶が、途中からしか存在していないものだってのは…前に話したな?」
頭の中を整理するように、ゆっくりと紡がれる言葉にこくりと頷く。
「じゃあ、“こっち”は言ってなかったか……俺を器にする時に、確かにお前の姿を俺は目にしたっていう話は」
『え…?』
初耳だった。
そんなこと、一言だって聞いたことがなかったから。
私が聞いたのは、せいぜい彼の記憶が一定の時期より以前に存在していないこと…そして両親がいないことと、ポートマフィアに属する以前は別組織を束ねてポートマフィアに敵対していたということ。
ポートマフィアに属する際には森さんの手引きがあったそうだが、並大抵の経緯ではなかったと聞く。
そしてもう一つ…彼は普通の人間であることだ。
彼の肉体が、ただただ普通の…一度息の根が止まればもう復活し得ないものであるということ。
普通じゃないのは、器の中に眠るそれ。
私のものとはまた別の、それ。
「…頭の中にあった、俺の中で唯一…なぜか執着してしまうイメージがお前だった。顔なんかろくに覚えてもないってのに…お前のその髪と、瞳だけはどうしても…なんとなく、頭の中にイメージとして存在していた」
それが、ずっと前の話。
「そしてそのイメージは…今から九年前、突然現実のものとして、俺の目の前に再び現れた」
九年前…まだ、彼が正式にはポートマフィアに所属していなかったその頃のこと。
彼は仕事で、ひょんなことから失態を冒していた。
かつての仲間から、信頼を手放されてしまっていたのだ。
身体に出来た瀕死の傷は、それが原因であった。
解毒薬も、傷を癒す異能力者もいない、そんな時…
そこに現れたのが、ずっと自分の中にあったはずの、その存在であったのだと。
私だったのだと、彼は言った。