第23章 知らなかったこと
私に声をかけたその人。
棒付きキャンディーを差し出した、見覚えのありすぎる人。
たまにお世話になったり、連れ回されたり。
一緒にお菓子を食べて無邪気に過ごした記憶はまだ、鮮明に残っている。
『え、江戸川さ「江戸川〜?そんな風に僕に気ぃつかっちゃう子にはあげないよ?覚えてるんでしょ?」、…ら…んぽ、さん』
「はい、よく出来ました〜♪はい、あげちゃう♡」
「え、えっと…ちょっと待って下さい乱歩さん?彼女と知り合いだったんですか…?…蝶ちゃんも!!」
どんな仲!?と面白い驚き方をする太宰さんに、乱歩さんが端的に説明する。
「お菓子あげたら一緒についてきてくれて、家で一緒にお菓子食べたり、街に出てお菓子巡りしたり…?」
「待ってうちの子すごい純粋すぎて怖いのだけれど私」
『…相談、乗ってもらったから』
「!……ああ、成程。それで一緒に飴食べてたの?仲直りする時」
こく、と小さく首を振ると太宰さんも腑に落ちたような顔をする。
…そんなこともあったな、そういえば。
「で、蝶ちゃんうちに入るんでしょ?社長に会いに行こうよ、今すぐ」
『えっ、今す「福沢さんだから…怖がらないで」あ…』
そういうことか、私にも納得がいった。
福沢さん…福沢諭吉さん。
何度か会ったことがあるし、会わなくとも何度もお世話になっている。
社長が福沢さんならば、私を見るのも当然だ。
『…いや、でもそれなら尚更迷わ「福沢さーーーん!!蝶ちゃん起きたよ!!採用試験採用試験!!」ら、乱歩さん!?そんな急に言っても____』
「採用試験などとうの昔に終わっている…寧ろ、こちらがスカウトしたかった程の人材だ」
採用試験、終了。
あれ、どうにも話ができすぎてるような気が。
困惑する私と太宰さんに、突然そこに現れた福沢さんがまた言った。
「貴殿の事なら、そこの太宰からも…乱歩からも詳しく聞いている。気が向かないわけでないのであれば、ここにいればいい……何があっても、貴殿の力になれるよう約束しよう」
「そゆこと♪良かったね蝶ちゃん、これで住む場所も帰ってくる居場所も、仲間も優秀な僕もゲットだよ!」
『……は…はあ…』
「…!ということは社長、まさか彼女に何かあったら匿って下さる、と…?」
「…元より、そのつもりだが……それで今まで捜索に協力していたのだ」
これが、私の入社だった