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第23章 知らなかったこと


「だから、川を通り過ぎてきただけで自殺の算段を立てるのは…!!…どうした太宰、一体何が…!!?な、っ…子供!?どのようにしてここに侵入を…異能力者か!!?」

『ひ、あ……ッ、ごめ、ん…なさ…』

怒鳴り声が聞こえて、眼鏡をかけた男の人の声に思わず腰が抜ける。
向けられる敵意が恐ろしい…殺意までに至っていないはずなのに。
私だって、弱くなんかないはずなのに。

「!…待って国木田君、暫くの間喋らないで」

「待てって貴様っ、そいつはどう見ても不法侵入者で「いいから喋らないでくれたまえ!!」!!?」

急に声を荒らげたその人。
珍しすぎるその声に、どこか懐かしさも感じた気がした。

けれど、足音がして…一歩こちらに歩が進んだと直感した瞬間に、思考が回らなくなる。
震えの止まらない体がいうことを聞かなくて、どうすればいいか分からなくて。

後ずさろうにも動かない体を固くさせていると、私の目の前に歩いてきた彼が……私と視線を合わせるように膝をついて、口にした。

「____…蝶ちゃん、かい……?」

久しく呼ばれたその名に唇が震えて、溜まっていたものが全部溢れたような気さえして、視界がぼやけるのに混乱する。

『お、ぼえ…ッ…?』

「…谷崎君、何かあたたかい飲み物を。できれば甘いもの…砂糖と蜂蜜も大量に用意しておいて」

「ええ!?は、はい…!?」

「それと与謝野先生、毛布と…あと医務室のヒーターを、そこのソファーにお願いします」

「それなら、寝台にまで案内すればいいんじゃな「お願いします」…分かったよ」

彼の指示に従って動く人達。
そして私は彼の、成長した腕に抱え上げられる。

『っ、…?』

「…こんな時間に、寒かったろう?…扉、閉めよう…あんな所、君はもう見なくていい」

『え……知、って…』

「そりゃあ、探してたから……さ、まずはあたたまって、久しぶりに甘いものでも一緒に」

ソファーに座らされると肩から大きな毛布をかけられて、ヒーターですぐにあたためられる。
そこで初めて、私は寒いところにいたのだと気が付いた。

『…今日、は…?どれくらい…』

「……三年半ってところかな。今日は九月の二十日だよ」

『三年、半…』

私を探してくれていたと太宰さんは言った。
…それじゃあ、あの人は…?

口にすることは、今の私にはとてもできなかった。
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