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第23章 知らなかったこと


珍しく殺されないまま経過した数年。
その先で起こったシステムエラーによって、今度こそまた死んでしまったかと思ったのだが。

私にはどこかの制服の上着がかけられており、自分のいた水槽だけでなく、施設までもが倒壊していたようだった。

『…っ、…?』

久しく出た環境に、声が出しづらい。
そして満足に運動することも…やはり少し、難しい。

けれど、能力だけならずっと使わされてきたから。

戻りたい場所なんて、会いたい人なんて、あの人なのに。
会ったところで、覚えられていなかったら…私のことなんて、もうなんとも思っていなかったら。

考えただけでも心臓が止まりそうになった。

数年間蓄積された、研究者…柳沢からの実験は、私の体だけではなく思考までもを変えていく。
改めて気付かされる自身の異常さに、彼には…彼にだけは嫌われたくないと。

彼にだけは、そんな顔を向けられたくないと。
恐怖心の方が勝って、動けなくなった。

こんな時に、織田作がいたなら…なんて思い返すも、そこはもう頼ってはいけないところだから。

そしてふと思い浮かんだ、もう一人…今は恐らく、中原中也という人物と関わりを持っていないであろう…そして私のことを知る、織田作之助の友人。
太宰治。
…彼は今頃、どうしているのだろうか。

生きているのだろうか…あの豪運だ、死ねることの方がおかしな話か。

私のこと、覚えてるかな…都合がいい時に現れてって思われるかな。

私を置いて消えてしまった彼は、何も残してはくれなかった。
あの日、あなたにだけでも言いたいことなんていっぱいあった、なんてそんな思いがあふれてくる。

…違う、怒りたいんじゃないの。
助けて欲しかっただけなの…あなたを求めていただけだったの。

もしも…もしも許されるのであれば。
彼に会えたなら…彼が私をまた、受け入れてくれるなら…

考えないようにしたあの人と同じくらいに願ったそれ。
すると、何もしていないはずなのに私の周りを舞い始める、白く輝くたくさんの蝶。

まるで、付いてこいと言っているような。

形成された扉は酷く輝いているように見えて、それさえもなんだか懐かしくて。

どこに繋がっているのだろう…家?それとも織田作の…?

震える手で手をかけて、何とか立ち上がって扉を開けた。

「もう、だから私は今からいい川…に…____」

『…へ…?』
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