第23章 知らなかったこと
数日間風邪で寝込んでいるうちに、執務室の私の机の上には、珍しい青い薔薇のプリザーブドが飾られていた。
手紙はちゃんと鍵のついた金庫にしまわれて、それから織田作の愛用していた銃も、一緒にそこに保管する。
使わなきゃ意味のないものだけど…それでも、彼はもう休んでいいはずだから。
首領から教えられた彼のお墓に行けば、能力が軽く暴走していたからか風邪をひいていたからか、何か神聖な力を体に取り込んだような…織田作のあたたかさが一瞬だけ感じられたような。
不思議とそれを感じたらすぐに熱が下がっていって、次第に他の症状もおさまっていった。
それから、中也さんに許可を得て、貯めていた資金で土地と建物を二つずつ、買い取った。
ひとつは家…もうひとつは廃墟。
私には、形にしておいてもらわないと、分からなくなってしまいそうだったから。
形にしておかないと、不安で怖くてたまらなかったから。
あの人のいたしるしを、残しておきたかったから。
私もそこにいたのだと、ちゃんと覚えていたいから。
私の名義は使えないからそこは中也さんに協力をお願いすると、何も言わずに頭を撫でてくれた。
それに頬を緩めてみせるも彼はまだ苦しそうに微笑むばかりで、また笑えなかったと何かが積もる。
そんな風に淡々と、どこかぼうっとして毎日を過ごしていたある日、なんだか一人で外へ出たくなった。
いつもなら太宰さんや、そこにつられて芥川さんなんかも付いてこようとするけれど…それももうないこと。
そして、中也さんには言いにくいこと。
織田作の件ならばともかく、彼の困った表情を見続けたくはなかった。
私がいるだけで、きっと彼は気を遣う。
だから首領に許可をもらって、外へ一人で出たはずが…付きまとってくる気配があった。
しかし、何故だか気配にそれまでよりも敏感になったのだ…相手の動きが手に取るように分かるような。
それで全員撒いて辿り着いた街中で、やはり何も満たされない。
そして結局、あの人と初めてぶつかった海へとまた足を運んでしまったのだけれども。
海に着いたらおかしな夢を見た。
意識のある状態だったけれど、海の中に自身の体が引きずり込まれる夢……そしてそれは起こってしまった。
夢から意識を覚醒させ、気持ちに整理もつかずに動揺しているその隙に。
大事な人との、二度目の別れ。
愛しい人との、何度目かの…
