第23章 知らなかったこと
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どうしよう。
どうして?
どうして…言ってくれればよかったのに、なんて。
理由だって、手紙の中でつづられていた。
それでも言って欲しかった…あなたの口から、あなたの声で聞きたかった。
こんな風に私にばかり与えていって、また私にのこしていく。
ありがとうなんて言わないでよ…なんでそんなに感謝してるのよ。
私は何もできなかった、あなたに頼って、助けられてばかりだったのに。
どうして…どうして…?
『な、んで…バイバイって言わないの…?…なんで…待ってる、なんて…ッ』
私はそこに行けないのに。
ほかの誰とも違って、そこに立ち入ることを許されないのに。
これだからいつも避けてきた。
別れが来るから、深入りせずに過ごしてきた。
ふと、もうひとつ彼から贈られていたことを思い出す。
包装を解いて箱を開ければ、中から出てきたのは青い薔薇が中に入った置物。
プリザーブドフラワーといっただろうか。
…こんな手紙と一緒に、青い薔薇を添えるだなんて。
私を女性として好きだなんて言うのなら、普通は赤い薔薇を選ぶでしょう?
なんて、彼らしい色の選び方に、どこか落ち着かされた気がした。
本気で待ってるつもりなのね…本当に私とまた会えるって信じてるのね。
…私がもしも帰れた時に、待ってなかったら承知しないんだから。
無理矢理完結させて、無理矢理意識を取り繕って。
失くしたものが大きすぎて、その大きさにたった今気付かされた。
そんな愛情…そんな愛を伝えられること、そんなにあるわけじゃあないから。
そして尽く、私に愛を伝えてくれる人は…私を置いていってしまうから。
安吾さんとは恐らくもう関われない…そして、太宰さんには、
もう二度と、会えるかどうかさえ分からない。
『…』
誰に言えばいいの、こんなこと。
誰にぶつけたらいいの、彼のこと。
なんで、こんな時に太宰さんがいないの…
理由だってだいたい分かってる。
だけど、それでもあまりにも酷いじゃない。
私には、あなたにそんな感情をぶつけることでしか、このどうしようもない感情を消化する方法がわからない。
だって彼のお願いだから。
織田作之助を恨むことはできないから…許さなければならないから。
____怒ってなんていないから。
許せないなんて、ただの一瞬も思えなかったから。
雨はまだ止んでいなかった。
