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第23章 知らなかったこと


無害で帰還…大人数の部下を一人も死なせることなく、抗争に勝利を収めて戻ってきた。
褒められても、讃えられても尊敬されても、何も思わなかった。
何も感じなかった。

そこにいるはずだった人が…三人、いなかった。

雨が降りしきる中、辿り着いた少し懐かしい気のするにおいの家。
いつの間にか紅茶を置くようになっていたその家は、いつしか私が何かある度に連れ帰られる一つの居場所となっていた。

それも、本当に私が死んでしまいたいと渇望するような…そんなとき。
自然と甘えられた…甘えさせてくれた、不思議な人。

ものを執筆するようなテーブルの上には、数枚の写真。
いつかのバーで撮った集合写真に、彼の支援していた孤児たちの写真。
そして?私に身に覚えのないような…酷く眩しく笑っている、私と彼の写真。

それを目にした時、どうしてという感情が拭えなかった。

どうして、こんなに私は笑えていた?

いつもこんな風に笑えていたなら…せめて、言葉にして感謝や愛を伝えられていたのなら。

してもらってばかりで、与えられてばかりだったそれらを、私は彼に返すこともできなかったのに…彼は私の手の届かないところへといってしまった。

私が、“存在する全ての世界”の中で、“唯一立ち入ることの許されない”世界に。

酷いじゃない…どうしてよりによってそこにいってしまうの。
どうして、あなたのような人が…私よりも先にそこにいってしまうの。

なんで、あなたなの。

雫になることも溢れることもなく、ただ心が空っぽになってしまったような気がした。

全員無事で帰還させた?
そんなもの、讃えられたって何も嬉しくなんてない。

何が護るための力だ…何が能力だ。

たった一人の人を救うこともできなかったのに。

任務から帰還して数日、私の目に映らない人がいた事に違和感を覚えた。
長期任務を終えればかならず顔を合わせようと言っていた人の、気配さえも感じられなかったのだ。

そんな中、中也さんの家に届いた…“私宛ての”封筒。
中に入っていたのは二つの鍵で、片方は見覚えのある…見覚えのありすぎるものだった。

何かあったのか、なんて思ってその鍵で開く扉の家まで移動してきた結果がこれだ。

道中、すれ違う人を問い詰めて、初めて私は知ったのだ。
太宰治の逃亡、離脱に坂口安吾の転職…そして…



織田作之助の“殉職”を。
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