第23章 知らなかったこと
中也さんと出逢ってから何年か。
穏やかじゃない日や色々と衝突したこともありはしたけれど、それでも大事に育てられた。
そう、大事に。
「お前それで前に攫われたことあっただろうが!?絶対ダメだ!!」
『中也さんが過保護なだけで…』
「一人でなんか認めねえからな!?俺が書類片付けるまで待ってろ!」
『か、買い物くらい一人で行かせてくれてもいいじゃないですか…』
大事に…いや、これは最早過保護の領域だ。
私からしてみれば嬉しいことこの上ないのだけれど、それでもここまでになってしまうと寧ろ申し訳なさが勝る。
まあこうなってしまったのには色々と事情がある…と信じたいのだが、外に一人で出る時にタイミング悪く私が誰かに目をつけられることが多かったから……らしい。
「せめて織田でも連れて行け」
『じゃあ声掛けに行ってきま「俺がいる時は俺とだ」…』
嫌ではないけれど。
大切にしてもらえているのだと思えるけれど…何かが違う。
『…じゃあお仕事私も手伝った方が早いんじゃ?』
「お前に仕事させてたまるかよ、絶対ダメだ!!!」
『中也さんの過保護、親バカ』
「誰が過保護だ、相手がお前なんだから当然のことだろ」
過保護じゃない。
それに親バカは否定しないんだ。
なんて言い合っているうちにも、中也さんの仕事は進む。
「……っし、…んで、どこに行きたいんだ?買い物って」
『!…紅茶、と甘いもの』
「なんだよ、それなら尚更ついて行くわ……買い終わったら何か食って行こうぜ」
歯を見せて笑う中也さんに、ぱあ、と目が輝くのが自分でも分かった。
『い、いいんですか!?』
「おう、勿論」
『や、やった…ありがとう中也さん…!!』
思わず敬語も外して、能力で彼に向かって飛びつくように移動する。
そして宙から彼に向かって落ちる私を難なく受け止めて、中也さんはまた私に向かって微笑みかける。
「こうやって来てくれっからな…だいぶ俺にも慣れてきたじゃねえか」
『!?だ、ダメでし「いい、いい…俺が悪かった、だから本気で焦んなって」…えへへ…♪』
「…よし、んじゃ出るか…って、蝶?お前離れる気あるか?もしかしなくてもねえな…?」
『……どっちがいいです…?』
「!…手」
言いながら、片方の手袋を外した彼に思わず笑みがこぼれる。
私だけの、“特別”だから。
