第23章 知らなかったこと
「…ダメか?その方が俺は安心なんだが」
『だ、だだだダメとかそういうのじゃ…手……手、って…』
嫌なわけじゃないし、困るわけでもない。
ただ、慣れてなくて恥ずかしい。
「指輪…?中也君、指輪ってあれかい?例の…」
「はい、そうです…目に見えてれば、安心かと」
『ゆ、指輪…はどうして…』
そうだった、指輪を外に出しておくこと…チェーンで首に下げてある指輪を、服の外に…?
嫌ではないけれど、どうしてだろう。
「そういや言ってなかったっけか…その指輪、俺の持ってるのと同じだろ?それ付けてる特別幹部様に手ぇ出したらその場で俺が処刑するっつうことになってんだよ」
どんな権限だ。
初耳なんですが。
「指輪が目印になって、分かりやすくなったしいいんじゃないかなって」
そうか、この人が首領だった。
ただ、理由が理由なだけに嬉しくて、それ以上は何も言わずに指輪を服から出す。
そして中也さんの方に目線を上げて、再び問う。
『………手、は…?』
「…何があってもお前と離れなくてすむように?」
『…そ…です、か…っ』
言いながら差し出される手。
ここ最近、たまにこうやって手を取られて歩くことはあった。
ただ、改めてされると…やはり慣れないし恥ずかしい。
しかしこれは中也さんの我儘…中也さんから私へのお願い事。
自分から聞き出した以上、聞かないわけにはいかない。
おそるおそる手を伸ばして重ねると、それに微笑んで彼は優しい表情をする。
…まただ、この人のこの表情…優しくて、柔らかくて、私の胸の奥を締め付けるこの表情。
「……今日は指、絡めねえの?」
『っ、…ど、っちでも…』
「…じゃあまた気が向いた時に頼むとするか」
柔らかい表情のままそう言って、私の手をしっかり…しかし大切そうに握る彼。
手を繋ぐ…私からしたら、それだけでも人と関わりを持ってしまう行為。
深くまで、足を踏み入れている…踏み入られることを許してしまっている。
「本当に仲良くなったね……少し安心したよ。蝶ちゃん、中也君の手、気が向いたらいつでもそうやって繋いでてあげてよ…そうしたら中也君、この上なく嬉しくなっちゃうだろうからさ!」
「首領…」
少し赤くなる彼の耳。
『……はい』
本当に嬉しいんだ…本当に、好きなんだ。
本当に、私を見てくれているんだ…この人は。
