第23章 知らなかったこと
「熱下がった…?…食えそうか?」
『…下がったら…食べさせてもらえないんですか…?』
「食べさせます、ええ、そりゃあもう喜んで」
朝食一つで、こんなに近くなれるなんて。
こんな風に、言えるなんて…言ってもいいだなんて。
「デザートは?」
『…中也さんの手作りを希望します』
「じゃあ俺が作るまで他の、食べてろ」
珍しい…いつもなら絶対に今から作るのか、なんて驚くはずなのに。
『……別腹が空いてきました、中也さんが不足してるので蝶孤独死しそうです』
「それは大変だ、俺も孤独死しちまうわ」
『…馬鹿にしてます…?』
「いいや?大真面目…そんなに離れたくなきゃこっちで食いながらいればいいさ」
いつもよりも近い距離。
それだけじゃない…なんだか今、すごく安心してる。
いつもよりも、怖くない。
そしてなんだか…
『……』
「…頬膨らんでますがお嬢さん」
『デザートに負けました私』
「どうしろと…ああ、分かった分かった、能力使ってでも構いながら作るって!!」
いつもよりも、不服。
デザートを作ってくれるのは嬉しいけど。
さっきまであれだけ甘えさせておいて、それをピタリとやめられると…なんだか気持ちのやり場がない。
ある種の症候群みたいだ。
『待ってる間のデザートは食べさせてくれないんですか?』
「もう好きなだけ食べさせてやりますよ…クソ、可愛い…」
最後の方は聞き取れなかったけれど、異能力を駆使して同時進行で調理も進める中也さん。
器用になったものだ、本当に…以前の砂糖粥事件とは比にならないほどに。
差し出されるケーキに目を丸くする。
『…ここ、こんな時間にケーキなんか…?』
「本当は昨日の夜、お前に食わせようと取っといてもらったんだよ」
『へ…?』
熱出てぶっ倒れてんのに、あるって言ったら意地でも食おうとするだろ?
なんて言いながらフォークでわけて差し出す中也さん。
『…じゃあ食べればよかっ…んぐ、っ』
「阿呆、一人で食っても美味かねえよ……半分分けてくれるようなどっかの誰かがいねえところじゃ、甘いもん食ったところで虚しいんだよ」
『ん…、…そ、それ誰のこと言って…っ』
次々とケーキを食べさせてくる中也さんに、思わず問う。
「一人で馬鹿みたいに甘いもんばっか食える奴…そんで、俺がこの世で一番大事な奴」
