第23章 知らなかったこと
「ち、蝶…?…な、なんで泣く…!?な、何か嫌なことでも言っちまったか俺!!?」
『え…あ、……違…』
「ああああ、それならどうした…どこか痛いか!?何か悲しかったか!?」
違うの…嬉しかったの。
不安だったの…怖かったの。
『わ、たし…甘えて、た…?…なのに、嫌じゃ、ないの…っ、?なんで?なんで中也さん、は…そうなの…?』
「は…?甘えて嫌、って……なんで俺が甘えてきて欲しい奴に甘えられて嫌に思うんだよ…?」
『……ただでさえしてもらってばかりなのに…なんで、そんな…』
「…俺がお前のこと、好きだから」
また言われた、この言葉。
それに目を丸くしてから、ピタリと何かが止まる。
すると彼の指が私の目から溢れていたそれを優しく拭って、また言った。
「してもらってばかりとか言ってんじゃねえよ…俺だって、一緒にいてほしいって我儘叶えてもらってんだから」
前にも言われた、そんなこと。
『…中也さん、の…手、大好きです』
ピクリと反応する彼の手に、自分の手を重ねて触れる。
____…お前がそう言ってくれっから…
何か聞こえたような気がした。
けど、聞き返さなくてもいいと思った。
私の背中に回されたもうひとつの腕が…私に顔を埋めてこっそり泣きそうになってる中也さんが、伝わったから。
「う、っせ…俺の方がお前の、こと…好きだっつの……覚え、とけよ…?お前よりもでけえんだ…どんだけ好きかわかってんのかこいつ…」
私でも、この人のためになれてたんだ。
存在意義が、見つかった気がした。
私が、この人の隣にいてもいい理由が。
私はこの人に生かされてる…私も、この人のそういう存在になれたなら。
今は…息をするのが、苦しくない。
何かが軽い…私が、生きたいって素直に思えるような。
この人のためになれるのなら…この人を幸せにできるのなら。
分かった、私でもそれが出来るって。
知った…私にしか、それができないって。
『…背中、だけじゃ嫌…です』
「……俺の手が二本しかねえのが恨めしいわ」
頬から頭にもっていかれる手。
知られてた…どうされたいか。
私が存在できる…この人の隣にいられる、確かな理由がもてた気がする。
例えそれが、今は互いにただの依存であったとしても。
“形”にできたのが、今はただ…幸せだった。