第23章 知らなかったこと
『…美味しい』
「名案だろ…それなら飲めそうだな」
白桃ゼリー…食堂の冷蔵室にあったもの。
それと一緒に薬を摂る。
驚く程味もしなければ、嫌な風味も…途中で引っかかることもない。
「てきとうにあった中から選んできたが、ゼリーで好きな味はあるか?あるなら、次からそれにすればいい」
『好きなゼリー…?……忘れちゃった』
「!…そ、うか」
どこか遠い思い出を遡る気力も無く、つい本音が口からこぼれる。
なんだっけ、好きな味…ゼリーなんて、前はいつ食べたっけ。
誰かと一緒に、食べたっけ。
『…中也さんと食べるのが一番好き……中也さんが選んできてくれたから、この味が一番好き』
「……お、俺の事はいいんだっつの…し、仕方ねえから桃の実分けてやるよ」
『!いいんですか…?』
「病人は優しくされる義務がある」
ほら、なんて言いながら差し出された桃を食べる。
ああ、やっぱり…この人と食べれば、こんなにも味がする。
こんなにも、味を感じることができる。
私って、桃好きだったんだ。
『…風邪、ひいて……誰かがいてくれたの、久しぶり』
「…どれくらい久しぶり?」
『覚えてない。…数十年ぶり』
「……これからは、俺がいる…もう寂しがらせねえよ、安心しろ」
トントン、とお腹を優しく手で軽くたたかれ、それに余計にあたたかくなる。
そっか、私不安だったの…寂しかったの。
『不思議…中也さんに言われて、初めて自分の気持ち、分かる』
「…経験が少ないんだろ、そのへんは…これから覚えていけばいい。いつでも俺が教えてやるよ……そうだな、例えば…」
言いながら、中也さんが私の頭に触れる。
思わず手に持っていたピルケースを布団に落とせば、中也さんの表情が和らいだ気がした。
『え……あ…え…?』
「…今お前、びっくりしてる」
『へ…っ、そ、それは中也さんが「で、焦ってすごい恥ずかしがってる」!!!』
更に熱が集まってそれを隠せずにいると、クックッと喉を鳴らしながら、彼は笑ってこう言った。
「ほんと、純粋な奴……そういうところが可愛らしいんだよ、お前」
『!?…っ、え…か、わ…!!?』
「……特に好きだっつってんだよ」
ぶわっと熱が上がる。
今はなんだか、隠せそうにない。
「…俺に好かれるの、好きだろ?…嬉しそうにしてる」
バレてるのは、風邪のせい
