第23章 知らなかったこと
『……ッ…は、…』
「…熱上がってきてんだろそれ、確実に…観念しろ」
『あ、上がってない…です』
「体温計がおかしかったっつうから五種類用意して測ったのにか?」
『う゛…っ』
外堀から埋められた。
中也さんと少し寝てから、その間身体を冷やしていたはずなのに良くなるどころか更にだるくなって体温が上がっていた。
けれど、今ここでそれを認めてはいけないのだ。
「……観念して…っ、解熱剤飲みやがれ、この風邪ひきがああああ!!!!!」
『やだ…!!』
「なんっでだよ!!一粒飲め一粒!!!」
『薬苦いの!!!』
「苦くねえよ、飲み込むだけだろうが!?」
『お水じゃ飲み込めずに舌に引っかかります…苦いです』
下手くそかよ!!と盛大につっこまれて、それからため息を漏らす中也さん。
しかしその溜息に、ピクリと身体が反応する。
『あ…、…っ…え、と…』
「あ?今度は何だよ…」
『……ご、めんなさい…飲みま、す…』
「は?…いや、お前今の今まであんなに嫌がって………蝶?…お前、ちゃんとこっち見て言えよ」
顔を覗き込むように近付けられて、思わず掛け布団で顔を隠そうとする。
するとそこから無理に扱われるようなことはなく、中也さんの声がまた響く。
「…なんで謝ったんだ?今…怒ってねえし、怒らねえから……思ってること、ちゃんと言え」
『あ…な、んでもな「正直に言えたら俺もっとお前のこと好きになるのにな」!!?…え…あ、へ…ッ!!?』
「……蝶が思ってること言ってくれる方が嬉しいぞ?」
『!!…、ぁ、その……ため、息…吐かせちゃった…から』
おそるおそる、口にする。
ため息…それはよく私に向けて送られていた、相手からの呆れや侮蔑の意思表示。
私の体に染み付くこの感覚…中也さんを失望させたくなかったから。
失望して欲しく、なかったから。
『中也さん、に…嫌になられるなら私……大人しく、飲み「待て待て待て待て」…はい…?』
「……ため息はな?なんつうか、その…太宰みてえな野郎に吐く分にはそんな意味がこもっちゃいるだろうが…そんな風に深い意味が無くても、ため息は出ちまうもんなんだよ。……不安にさせたなら謝る」
『!?なんで中也さんが謝っ「気が利かなかったからな……それに人間、誰しも苦手なもんや嫌いなもんくらいあるだろ」…人間、って……』
