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第23章 知らなかったこと


「……というわけなんだが、太宰…手前の差し金なんてことはねえよな…?」

「…私が蝶ちゃんに思い出させるようなことをさせたがると思うかい?……ただでさえ一度、泣かせてしまったのに」

「…本来なら、大問題だぞ?何のための権力だよ」

「そうならないために君が“過剰に”やってしまってくれたんじゃあないのかい?数日は目覚めないよあの怪我じゃ」

「なわけあるか、こちとら頭に血が上って殺そうとしてたのを抑えんのに必死だったんだぞ」

医務室の中…寝台の上で中也さんに腕を回して顔を隠したまま、二人の会話がどこか少し遠くで聞こえているような気分になる。

「まあ、あの場で君が本当に大急ぎで任務に当たっていなかったら…助けに行くのが遅れていたわけだしね」

『ッ…』

「……教育係だろうが手前…次はねえぞ」

私の背中を撫でている手は酷く優しいものなのに、抑えられていない殺気は凄まじいもので。

「分かってるさ…私だって処分にかなり頭を悩ませるところだ………すまなかった蝶ちゃん、彼に代わって私から謝らせてくれ…謝って済むような問題ではないと分かってはいるが、それでも」

『…わ、たし……その…』

「……誰も怒らない。言ってくれ」

『っ…、…わ、たし…何も企んで、ない…っ、……中也、さんのとこに、いちゃダメ…です、か…?何も、ないの…何も、持ってなくて…一緒に、いたいってだけじゃ…理由に、ならない、から…その…』

「それは他の誰かが決めるような事じゃない…そのような考えがそもそも間違っているものだ、そんなものに君を支配させはしない。……君が一緒にいたいだなんて、それだけで確かな一つの理由だよ…中也だって同じなのだから」

寧ろ、そんな素晴らしい理由だけで一緒にいたいと思える相手の方が少ないものだ

かけがえのない存在だよ

優しく…ただ優しく、彼は言う。
かけがえのない存在…そう、なのだろうか。

「…手前はとりあえずあいつの様子見ておけよ」

「分かってる…またね、蝶ちゃん。今度またちゃんとお詫びするよ」

『……太宰さん…何も、悪くな「私の監督不行届もあるから」…?…は、い…?』

太宰さんが出て行くと、中也さんが少しだけ肩の力を抜いたような気がした。

「………お前は俺の“特別”だ…俺のかけがえのない存在だ。……隣にいるのに、俺からこんなに頼み込むほどだ、自信持て」
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