第23章 知らなかったこと
執務室に戻り、中也さんが用意をしに戻ってきてから、彼が拠点を出るところまで見送りに同行する。
それから、彼がまた帰ってくるまで待つ。
いつもの事。
騒がず、喚かず…ただ、大人しく。
「今日もまた中原さんを?健気っすねえほんと」
『…私の我儘なんです。ちょっとでも早く会いたいなって』
「あの人もあの人で幹部のこととなると一生懸命だからなぁ…」
寂しくない…少しの間、待っていれば帰ってきてくれるから。
時折ここを通っていく黒服さん達と会話ができるのも悪いことではないと思うし…何より、段々と私もこの組織の人たちと関われるようになってきたのが実感できる。
これも、中也さんのおかげ…全部、全部あの人の。
____コホッ、…
『!…?』
聞こえたのは咳払いの音。
そして感じた、禍々しいほどの…殺気。
「……どうしてポートマフィアに、貴様のような子供がいる…」
今の私よりも年上で、中也さんよりも少し幼いような。
『…あなたは…だ……ッ、?…ぁ…』
「中原さん…あの人は素晴らしい戦績を残していっている人だと聞く。次に幹部になるのはあの人ではないかと噂されるほどには……なのに、そんな人の隣にどうして貴様のような者が?」
向けられた殺気なんかより…喉元に突きつけられた黒い刃より、その言葉の方が痛かった。
どこかで自分も、そう思っていたから。
私にだって、分からないから。
どうして、あんなにいい人の隣に、私がいてもいいのかなんて。
「太宰さんからも…っ、こちらについてこい」
『…は、い』
その人の纏う外套へと、黒い刃は消えていく。
それにしても、どうしてこんなに恨まれて…?
どうして、そんなに私の確信に触れてくるの?
考えても分からない。
どうして今、この人についてこいと言われているのかも。
分からない…分からないから。
私が信じられる言葉を、信じるしかなかったから。
抵抗したって良かったのかもしれない、けれどしてもいいのか分からなかった。
あの人の隣でいていいのか、自信だって…なかったから。
私の中には何も無いの、あの人から与えられて出来た人間なんだもの。
だからこそ、私が私であるために…いつだって、必死で。
「……いくつか質問する」
ついたのは拷問所…血の、匂い。
脅しながら、手足を動かないよう固定された。
いい子に…しなきゃ…