第23章 知らなかったこと
「うん、じゃあ今日の分はとりあえずこれくらいで…中原君の方には今から軽めの任務に行ってもらおうと思ってるから、蝶ちゃん先に執務室に戻っててもらってもいい?」
『…一緒に行っちゃ「今日の任務はダメなやつ」……』
「……よし蝶、いい子に待ってたら帰りにケーキ買ってきてやるよ」
『!!ケーキ…と中也さん!?』
「俺をわざわざ出すな、俺を」
稀にある、私がついていけない任務。
内容は教えてはくれないけれど、まあ見ることはあとから可能なのだ。
職権乱用に軽く等しい行為ではあるが。
『…中也さん、そのままいなくなっちゃったり……』
「……俺がいねえとどっかの誰かさんが泣いちまうだろ?そんでもって俺はその誰かさんが泣いてんのが一番辛いんだわ」
それでも、心配になる。
どこかに行ってしまうのでは、というのは、中也さんが任務でどうにかなってしまうかもしれないという危惧ではない。
私がついていけない任務…それは決まって、彼が“女性を相手にする”任務だから。
中にはハニートラップなんかを専門にするような人がいるのも勿論…それに、綺麗な人ばかり。
中也さんに限らずとも、そんな女の人達、嫌いな男性の方が少ないはず。
「…ん〜…じゃあ中原君が浮気して帰ってこようものなら、一週間蝶ちゃんのお家を太宰君のところにお引越ししようか」
「浮気って……いや、心配されなくてもしませんからね!?絶対!!!」
『…』
「……ごめんね蝶ちゃん、でもやっぱりこういう任務もまあ…あるにはあるから」
『………大丈夫、です。いい子にして待ってます』
「…俺が戻ったら悪い子になっていいからな?ほんの少しの間だけ…ごめん、頑張っててくれ」
私の前でしゃがんで彼にそう言われれば、断ることなんかできっこない。
私が中也さんからのお願いを、断れるわけがないのだから。
「場所だけ分かるようにしておいてくれれば、安全なところならどこに行っても構わねえから…ただ、一人で外を出歩くのだけは無しな?せめて誰か信頼できる奴を連れていくこと」
いい子にしてろって言うくせに、私の自由は奪ってくれない。
これだから甘いというのに…これだから、優しいというのに。
『…中也さん帰ってくるの、待ってます』
「体冷やすからせめて室内にしててくれよ?…分かった、すぐに戻る」
中也さんとの約束…大事な大事な、約束