第23章 知らなかったこと
「誰彼構わず優しくはしねえよ、俺だって…寧ろこんな風にすんのもお前くらいなもんだって」
『…なんで、私のこと…大事にしたいって、思うんですか…?』
「!なんで、って…なんでだろうな。…まあ、まず間違いねえのが、俺がお前の事が大好きだからだろ」
『へ……あ…』
唐突すぎて驚いた。
あの一件以来、思っている事をよく言葉にしてくれるようになった彼に、私はよく驚かされる。
「蝶と一緒…じゃあねえのか?」
『!!…一緒……うん、一緒…』
「……それなら、それでいい。…ほら、そろそろ資料貰いに行かねえと」
中也さんが椅子に座っている私に手を差し出して、それに緊張しつつも手を重ねる。
繋ぐ方の手だけは、いつも彼の体温を直に感じられる。
この感覚が、たまらなく心地いい。
彼の特別に慣れているような気がして。
廊下に出て、首領の元まで移動をするこの時間は、特に私がこの人を独占していると感じられるから。
「…?やけに今日はざわついてんな…また“あの件”かぁ?」
『……太宰さんが、新しく異能力者を連れてきたって…?』
「あ、ああ…それもだが………中々手厳しい指導をしてるみたいだからな」
『あの太宰さんが?』
想像もつかない…
新しい異能力者…どうやら貧民街から連れてきたらしく、新たな戦力になると見込んで太宰さんが直々に訓練しているそう。
「太宰さんがどうしたって〜?ち、よ、ちゃん♡」
『ひゃっ…!!!?』
「ンな…ッ!!!」
ピタリと、背後から腕を回して私に抱きついてきたその人。
「隣の蛞蝓なんかおいて私と一緒にお茶でも「この青鯖っ、仕事しやがれ仕事!!!」さっき一区切りついたところなのだよ、チビっ子マフィア君」
『……!…血…?』
「!…あ、ごめんね蝶ちゃん、私首領に提出する書類を忘れてきてしまったらしい…また今度デートしようね♡」
『…ちゃんと休んでくださいね?』
ますます好きになっちゃった♡なんて茶化しながら去っていったけれど、確かに今、私の声に反応して離れていった…気を遣わせた?
けれども、絶対に間違いはないのだ…あの人のスーツから、血の匂いがほのかに漂ってきたのは。
あの人自身の包帯やスーツにシミがなかったことから、恐らく“そういう場所”にいただけであるということは確かなのだけれど…
「誰がさせるか、誰が!!…行くぞ、蝶」