第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
「んで立原、あいつの様子がおかしくなる直前に何を言ったのか覚えてるか?覚えてる事をそのまま話せ」
「…今はもうポートマフィアじゃねえんだろ、尻尾巻いて逃げたんだかドジって離れる事になったんだか知らねえけど、やっぱり餓鬼なんかじゃあ力不足だったって事だと、言いました」
立原から聞いた言葉に、頭に手をあてて成程なと納得する。
「あー…成程。確かにあいつには一番効く内容だなそれは、蝶が馬鹿な事しようとするには十分だ」
「馬鹿な事って、さっき俺が聞かせられなかった事と何か関係があるんすか」
まだ内容を言っちゃいねえが、本人なりになにか思うところがあるのだろう。
蝶に言うなとは言われたが、俺にだって頭にきてる事はいくつかある。
立原は何も知らなかったからそう言っただけだ。
だが、次にまた蝶の地雷を踏むような事があっては、その時に俺が冷静になれるか分からない。
「ああ。あいつには絶対に言うなと言われたが、あいつはさっき自分の記憶を消そうとしたんだよ」
「記憶を!?一体なんでそんな事…つか、やろうと思ってできるような事じゃないんじゃないんすか普通」
そう、普通であればそんな事は出来ない。
しかし蝶は、皮肉な事にも普通ではない。
「それなら俺が焦る必要ねえだろが…出来ちまうんだよ、あいつにはそれが。」
立原にはとりあえず、蝶の能力と、それが異能ではないという事を説明した。
「で、また能力の話になるんだが、さっき俺はあいつの空間操作能力の事を、移し替えの能力だって説明したな?」
「は、はい」
「例えば他人の傷そのものを自分自身の肉体に移し替えたり、自分の血液を消耗してその代わりに大気中に壁を作ったり……とまあ不思議な事だが、言ってしまえば何だって入れ替える事がでこるんだ」
「でも、それで記憶を消すだなんて事…出来るんですか?」
それが出来るからタチが悪い。
俺の無力さが腹立たしい。
「あいつの乗ってた寝台の上に、容量拡張用のハードウェアに繋がれた携帯があった。俺が駆けつけた頃に自分の頭に手あてて泣いてやがったから、大方そっちに移し替えようとでもしたんだろ」
あいつを見つけた時、とっさに出てしまった自分の手を強く握りしめる。
本当、勘弁してくれよな蝶…そんな事されたって俺、全然嬉しくなんかねえよ。
「記憶を…移し替える?でも、何でそんな事…」