第23章 知らなかったこと
『____…』
“いつも”のように目が覚めた。
私にとっては新鮮な…一人きりで、当然のように息を吸うこの感覚。
目を開いたところは知ってる場所。
けれどどうしてだろうか、この場所にいるのに…森さんもいない。
私が最初に感じた、贅沢な疑問はそこだった。
そう、森さん“も”いないのだ。
誰の温もりを欲しているかなんてものは明白だった。
しかし、起き上がってみれば少しだけ現実味を感じることができるようにもなる。
服は綺麗なものに着替えさせられていて…布団との間に、見覚えのある外套があったから。
真っ黒な、私からしたら大きすぎる…
『……中也さんの、外套…?』
それを手に取ったことで気が付いた。
周りで鳴っている電子音…それと、自身に繋がれた管。
生体情報モニタと………“いつも”のような、点滴と。
胸が締め付けられるほどにショックを受けた気がした。
そしてそれはやはり私の呼吸をいともたやすく乱してくれる。
心臓が変な動悸を初めて息をまともに吸えなくなると、サイレンのような、アラートのような音が鳴り響く。
それに合わせてここ…ポートマフィアの拠点の医務室へ走りよってくる誰かの足音。
息も絶え絶えになって、意識が薄れかけていた頃に、ようやく誰かが私の元に現れた。
「蝶ちゃん!?君気がついて…ああああ、とりあえず落ち着きなさい!どうしたのいったい、大変な事になっているよ君の身体!?」
『も、りさ…っ、な、なんで…なんで、っ…針、やだ…ッ、嫌、これやだ…!!抜いて下さ…ッ、や、だぁ…っ』
「!!そうか、それでそんなに…少しだけ待って、すぐに抜いてあげ『〜〜〜ッッ!!?』…とりあえず深呼吸から始めようか」
触れられそうになった手を途端にもう片方の手で庇ってしまう。
抜かれる感触…あれも嫌。
刺さってるのも…刺されるのも。
だって、この行為はおぞましいものだから。
「“首領”!!!今の音は蝶ちゃんの…っ、いったい何が…?」
『!!!…だ、ざいさ……』
「…成程、何となく事情は察した。…蝶ちゃん、はい…ゆっくり息吐いて?…そう、それから同じように息吸って…うまいうまい」
時間をかけていくと段々と呼吸をできるようにもなってきて、そうすると太宰さんは、キツくない程度に柔らかく私のことをまた包み込んでくれた。
「……目が覚めてくれて良かった…」