第23章 知らなかったこと
能力の事を聞いて、すぐに扉を作れば、手袋を外した素手と頬に赤黒い模様が浮かんでいて…初めて見るような表情の中也さんがそこにいた。
「あの圧縮された重力玉…あれは光さえもを飲み込んでしまうような、所謂ブラックホールのようなものだ」
『…カウンターの“異能力”まで…?…私の能力と似てる』
「!…まあ、あれで自我があればそうかもね…本当は使いたくなんかなかったのだけど、それでもまあ……蝶ちゃんに手だしてくれちゃったからね」
私も中也も、覚悟を決めるには十分だったよ
聞けば、中也さんの生死に関わるという汚濁。
…私のためなんかに?
なんで、こんなののために…
なんて考えているうちに、決着がつく。
相手はといえば、木っ端微塵になるどころか吸収されて、その場からいなくなってしまった。
それからすかさず太宰さんが扉から出ていって、中也さんの背後から近づき、肩に触れる。
「……終わったよ、蝶ちゃんも解放した。…後は休め」
「___!!!…っ、く…、そ……ッ………!手前…蝶は…」
「…話したよ、汚濁の事。…彼女のためにもとっとと調子を戻すんだ」
『…!!?』
重々しく膝をついた彼は吐血して、それから意識を朦朧とさせたように倒れ込んで。
確か、骨を何本も折っているとも言っていたはず…
すぐさま医務室への扉を作って、太宰さんと中也さんもそちらへ移動させる。
「ん?…って、中原君!!?まさか君、実戦であれを…!!すぐに寝台に……!!!」
言われるまでもなく、新台へと移動させる。
それからまた壁を張って…森さんや太宰さんの声が聞こえるのも無視して、状態そのものを自分に移して。
相応の痛みを覚悟していた。
けれど私を襲ったのはそれだけじゃなかった。
まさか、私が移し替えて耐えられないほどのものだったなんて……なんでこの人は、こんな事になるのに私のためになんか…
意識を持っていかれるのと一緒に彼の胸元に倒れ込むと、少しだけ安心する香りが鼻をかすめたような気がした。
知ってるよ、私…これ、危ないやつでしょう?
死んじゃうかもしれないって…これ死にかけてるやつでしょう?
意識も身体も、全部蝕まれていたんでしょう?
知ってるよ…分かるよ。
私がどれだけ死んできたと思ってるの…私がどれだけ、この感覚に遭ってきたと…