第23章 知らなかったこと
愛なんて言葉、いくらでも聞かされてきた。
だけど私は敏感だから…乾いた言葉に気付いてしまう。
それでも良かった…それでも、口先だけでも、家族からの愛が欲しかった。
それだけだった…ただ、それだけだった。
『あ、い…とか……そ、んな…』
「…怖がらないで…君が嫌がるようなことや怖がるようなことをするような奴が、君をちゃんと愛している人間のすることだと…本気で思っているのかい?」
…そっか、私嫌だったんだ。
怖かったんだ。
だけど、断ることの方が痛いことになるって…怖いことが続くって、どこかで分かってたから。
「____私の事も、そういう人間だと思うのかい…?」
私が怖がらないようにって、最初に身体を自由にしてくれたこの人が?
わざわざ先に私の服を整えてから、目隠しを外したような…そんなところにまで気を回してくれるような人が?
横に振った首に、どこか彼がホッとしたのが伝わった。
「じゃあ、お願い…私の言うこと、信じてみて。……君はなんにもおかしくない…周りがそんな風に思うようにさせてしまってきただけだ。それに君は何も悪くない…何もだ」
『な、にも…?』
「そう、何も…こんな事、無理強いしてくる方がどうかしているのだよ。……っと、本当は君が安心できるまでこうしていてあげたいのだけれど…今かなり厄介なことになっていてね。先に拠点に____」
『中也さん…は…?』
ふと口をついて出た言葉。
考えてみれば、おかしな点がいくつかある。
先程の轟音…あんな音を立てて戦闘できるような人間そうそういない。
それに、太宰さんが最初に私の元に来るだなんて…中也さんの性格からしてみて、普通は有り得ないことなはず。
『……何、してるの…?太宰さん…中也さん、もしかして…』
危ないこと、してる?
言った直後に、あの太宰さんが動揺したのを感じ取る。
『…心臓、早くなってる…ねえ、中也さん何してるの?……ずっと私に隠してたんでしょう?二人とも』
「……そこまで気付かれてたの…そう。……蝶ちゃん、相手の消息分かる?」
『衰弱してきてる…けど、まだ生きてる』
「うん、流石だ…それなら今説明してしまおうか」
太宰さんの口から語られたのは、中也さんの異能力に関する重要な内容。
太宰さんがついている時にのみ、使用できるという秘策…
その名前を、“汚濁”といった。